三峡ダムは「決壊説」が繰り返されてきたが当面は決壊しそうにない。
だが問題がないわけではない。
長江は土砂の粒径が粗く、ダム湖にとどまりやすいために、ダムからの放流水は土砂が
少ない清水となります。黄河では調水調砂(ダムに堆積する土砂を排出する)でダム下流
の『河床上昇』がうまくコントロールされたが、長江ではむしろ土砂が不足するために
『河床低下』、さらに河口部まで土砂が供給されずに『海岸浸食』が起きている。
上海の海岸線が年々減退しているのです。

一方、上智大学大学院地球環境学研究科の黄光偉教授は、三峡ダムの問題点について
「重慶市にもっと着目すべき」と指摘する。
「重慶は人口3000万人の工業都市です。世界でどこのダムの上流にこんな重要都市が
ありますか?」
三峡ダムの上流には狭い峡谷が連なり、地質がもろく、崖崩れや地滑りが頻発して岩石や
土砂が長江に流れ込む。その結果、全長660キロにも及ぶ、ダム湖からバックウォーター
(背水池)に掃流砂が大量にたまる。重慶はそのバックウォーターの先端にある。堆砂が
たまって河床が上がった重慶では、水位が上がり、水害が頻繁に起きているのだ。

現在、中国では長江上流の金沙江に巨大なダムを次々に建設している。最先端技術を誇る
烏東徳ダムは一部稼働を始めた。渓洛渡ダムは発電量1万3860メガワットで世界第3位だ。
これに向家覇ダムと白鶴灘ダムを加えたダム4基の発電量は、三峡ダムの発電量の2倍に
なる。
こうしたスーパーダム群が、三峡ダムの堆砂を少しでも減少させるために役立つのか。
あるいは、中国のはるか奥地まで堆砂問題を拡大させようとしているのだろうか。
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