プーチンの真の脅威は、シロヴィキ(ロシアの治安と軍事のエリートを表すロシア語)にある、とホール氏は考える。野党指導者のアレクセイ・ナワリヌイを毒殺しようとし、また、ロンドンのホテルでロシアの元情報将校、アレクサンドル・リトビネンコの紅茶に放射性物質ポロニウムをlacing(混入させて)暗殺したのは彼らだと言われている。彼らは、過去30年間自分たちの権力を維持してきた独裁政治がスローモーションで崩壊していく様を見ており、プーチンを脅し、彼の政権を終わらせるために必要な武器と人材を持っている、とホール氏は指摘する。「彼らは行動を起こすことを決意するかもしれない」とも述べている。

しかし、プーチンを排除するのは簡単ではない。彼はクーデターや暗殺を恐れて、警備にこだわっていると言われている。防弾ブリーフケースと高性能のピストルを持ったボディーガード、look-alike(そっくりな)代役、試食係などは、彼が自分を守る手段のほんの一部だと言われている。

さらに、ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、トム・フリードマンは、ロシアがプーチンを排除したとしても、すべての問題が自動的に解決されるわけではないと警告している。プーチンの下でロシアが強くなっていくことよりも怖いのは、弱く屈辱的で、disorderly(無秩序な)ロシアになることだという。分裂したり、内部の指導者の混乱が長引いたり、異なる派閥が権力争いをしたりして、核弾頭がそこら中に存在している状態になる可能性があると指摘している。

その他に考えられる恐ろしいシナリオは、NATO諸国が偶然か意図的にか、より直接的に紛争にget sucked into(巻き込まれる)ことである。あるいは、ウクライナでの攻撃の行き詰まりに怒ったプーチンが、化学兵器、生物兵器、核兵器、サイバー兵器など、他の兵器に手を伸ばすことも考えられる。制裁の痛みによってロシア人が共通の敵に対して団結し、反対意見の弾圧の中で国家のプロパガンダに突き動かされるということもあり得るだろう。

いずれにせよ、ロシアのウクライナでの失策の行く末を楽観することはできない。