バイデン大統領はなぜ、このタイミングで台湾防衛に踏み込んだのか。

 もちろん、中国を強くけん制するためだ。ロシアのウクライナ侵攻について、大統領は昨年12月にいち早く米軍を派遣しない方針を明言し、内外で「侵攻を促す一因になった」という批判を浴びた。その反省もあったに違いない。

 ただし、繰り返すが、この発言が米軍派遣を意味するかと言えば、そうとは言えない。軍事物資の提供にとどめても「軍事介入」に変わりはないからだ。逆に米軍を派遣しても、発言と矛盾しない。結局、玉虫色の曖昧さは維持している。

 では、実際にどうなるのか。

 私は、これまでも書いてきたように、米軍派遣に悲観的だ。米軍を派遣して、台湾に侵攻した中国と正面衝突すれば、それこそ核戦争に発展しかねない。それでは、米国が負うリスクが大きすぎる。

 米軍の現場も慎重だ。マーク・ミリー統合参謀本部議長は4月5日、上院軍事委員会で「台湾防衛の最善策は(米国の支援を受けて)台湾人自身の手で実行される」と証言した。

 ウクライナ侵攻についても「米軍が派遣されていなければ、プーチン氏の侵攻を抑止できたとは思えない」「だが、派遣されれば、ロシアと軍事衝突するリスクが高まる。私は、とても『派遣すべきだ』とは助言しなかっただろう」と述べた。

 台湾への米軍派遣問題は、ウクライナ戦争の行方と密接に関わってくる。

 もしも、ウクライナが西側各国の支援を得て、ロシア軍を追い出すのに成功すれば、核の脅しにもかかわらず、ウクライナと西側は通常兵器で、しかも米軍や北大西洋条約機構(NATO)軍の派遣なしで、ロシアに勝利する形になる。

 そうなったら、米国は「台湾でも米軍なしで中国に勝てる」と考えるかもしれない。もっと言えば、これが米国の「新しい戦争のかたち」になる可能性がある。つまり「米軍は後方支援だけで、戦うのは現地軍」にするのだ。

 米国は昨年8月、史上最長の戦争を戦ったアフガニスタンから撤退したばかりで、国民は「戦争疲れ」している。ウクライナに米軍を派遣しないのは、核を持つロシアとの直接対決を恐れたからだ。そうであれば、核を持つ中国との直接対決を避けても、おかしくない。