仮にロシア軍がポクロフスクを「作戦上包囲(operational encirclement)」しているとしても、それは即ち戦略的勝利や市街地制圧を意味しない。戦術的に一時包囲の形を取ることは戦場では珍しくなく、特にロシア側は補給線を狙った局地攻勢を「包囲」と喧伝する傾向がある。映像や現地証言で畑の道路や破壊車両が確認されるのは事実でも、それはあくまで前線の局所的膠着と混戦を示すにすぎない。

戦略的包囲とは、部隊間の通信・補給・後方支援が完全に遮断され、戦闘部隊が孤立した状態を指す。ウクライナ軍は依然として南側や西側から補給・支援砲撃を継続しており、参謀本部も撤退命令を出していない。DeepStateMapやISWの最新分析でも、ポクロフスク市街地の西部・南部にはウクライナ支配域が残り、戦線は流動的だ。つまり、局地的な突破や包囲は認められても、都市全体の陥落や防衛線崩壊には至っていない。

ロシア側がこうした「部分的包囲」を強調するのは、国内向け宣伝と士気維持の意味合いが強い。戦況報告で実際の前進距離や戦果を誇張するのは過去のバフムト戦などでも繰り返されてきた。日本の立場からすれば、こうした宣伝を真に受けて一喜一憂する必要はない。重要なのは、侵略という構造的な不法行為を容認しないという原則を維持することだ。仮にポクロフスクで戦況が一進一退になっても、ロシアの侵攻が国際秩序を脅かしているという現実は変わらない。停戦や譲歩を急ぐ理由も、日本が立場を変える理由もどこにもない。