国産ジェットエンジン一筋に

「もともとは,相生工場の造船部門で船の修理をやっていて,あるとき『設計に行きたい者はいるか?』と声が掛かったので手を挙げ,船の基本設計をやりながら船体の固有振動や,試験航海での船体振動を測定したり,振動を抑えるためのバランサーの試験に立ち会ったりしていました.それから航空宇宙事業本部(空本部)に異動となり,ジェットエンジンの工程設計をやることになりました.回転するものは必ず振動する.振動はエンジンから本体に影響するので,それをいかに抑えるか…….そういうことでは同じだなぁと思ってね.」

飄々とした口調で語る中川淳は,兵庫県相生市出身.船体の基本設計から空本部に移って今年でちょうど30 年目,ジェットエンジン製造工程設計のベテランだ.空本部に異動したときは,ちょうどF3 ジェットエンジン開発の完成段階で量産に移行する時期だった.ここで,エンジンの運転試験を担当し,さまざまなトラブルに遭遇,その対処方法を学んだ.その後,XF5,F7 とエンジンの開発から量産に携わり,さらに整備の工程設計も長らく担当してきた.

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今後の目標を聞くと中川は二つ挙げた.一つは知識を引き継ぐこと.昨年,中川らは現場の作業の仕方などを担当者が集まって発表し,調整する場をもった.

互いの作業に関する情報を共有して,迅速な解決を目指す仕組みを作ったのだ.中川が蓄積してきた知識や経験をグループとして引き継ぐ工夫である.
もう一つは,新技術による品質の安定化だ.例えば,サイズの異なるボルトやナットを選んで自動的に締めるロボットや不具合品の自動選別機などのアイデアを温めている.なぜこうも次々とアイデアが浮かぶ
のか.「まあね,やっていることに興味があるから,楽しいからだよ.」と軽い口調で答える中川.そこには,軽い口調とは裏腹に長年幾多の困難と真摯に向き合い,解決してきた人ならではの深い響きがあった.