もし私が何の制約もない異世界、特に文明レベルが未発達か、あるいは厳格な階級社会に支配されている世界に転生したと仮定するならば、まず行うべき悪行は、「情報の独占と知識による世界支配」であろう。現世の科学、技術、歴史のすべてを、その世界では神託や絶対的な真理として提示する。具体的には、銃器の製造理論、基本的な衛生学、電力の生成原理、そして最も重要な、未来の歴史予測(偽装された予言)を、門外不出の秘術として、最下層の者にではなく、既存の権力者や排他的な聖職者階級に売りつけ、その懐深くに入り込む。これにより、私は彼らの権力を内側から操作する「見えざる教皇」の地位を確立する。これは、自らの手を汚さずに、世界全体の情報インフラと社会構造を掌握する、最も効率的かつ徹底的な悪行である。
​次に、この支配体制を磐石にするため、「人為的な分断とカルト的な信奉の創出」を実行する。現代の社会心理学やプロパガンダの技術を駆使し、既存の民族や階級間の対立を意図的に煽り、小さな内戦や紛争を誘発させる。この混乱の中で、「私」が授けた知識を持つ勢力だけが勝利し、平和を回復するという劇的な構図を作り出す。これを通じて、世界を二つに分断する新たな教義を確立し、「私」の指示こそが絶対的な救済の道であるというカルト的な信仰を民衆の深層意識に植え付ける。この悪行の目的は、単なる支配ではなく、人々の思考そのものを操作し、疑問を抱く能力を根絶することにある。
​ さらに、これらの行為の究極的な悪行として、「生態系と時間の不可逆な改変」を敢行する。現代科学の知識を利用し、その世界の魔法や生命倫理を無視した遺伝子操作や錬金術を組み合わせ、既存の生態系を効率的な資源採集のために最適化する新たな生物を創り出す。食糧生産を劇的に向上させる新種から、戦闘に特化した人工的な魔物まで、「世界を救う」という名目で生態系を攪乱し、不可逆的な変質を強制する。そして、この新しい世界の創世主として、自らの名前を神話に刻み、未来永劫、その世界の歴史を歪み続けるのだ。それは、単なる人殺しや略奪とは比べ物にならない、文明全体に対する、徹底的で壮大な悪行である。