【不老不死令嬢】

 不老不死。それは全ての人間が憧れる理想。
 中国の皇帝や、お偉いさん達が次々とそれを求め、しかし得られなかったもの。
 だが彼女は違った。
 忘れもしない。十五歳のある日、彼女は海辺でとある女性と出会った。
「ねえお前さん。不老不死っていうのは知ってるかい?」
 若く見えるのに、すっかり希望を失った目をしている、不思議な女性。
 私は彼女を見据え、首を傾げた。
「知ってますけど……、それがいかがしたんですか?」
 すると女性は、「信じられない話だけど」と言って、訳の分からない事を語り始めたのだ。
「いやあね、あたし、実は不老不死なんだよ。……ずっとずっと何年も、何十年も、この世界を生きて来た。永遠の命ってのは素晴らしいと思うかも知れない。あたしも最初はそう考えていたよ。だがあたしはもう、疲れちまった。だからね、あんたにあたしの力をあげたいと思ってるのさ」
 女性は微笑み、「どうだい?」と小首をかしげる。
 私は何が何だか分からなかったけれど、なんだか楽そうだと思ってしまった。
「面白いお話ですね。ではその不老不死の力、私に下さい」
 女性はふふっと笑うと、なんと突然、右腕をスッと突き出して来た。
「あたしの腕を食べな。しっかり噛むんだ。ほら」
 だがそう言われても、私は戸惑ってしまう。だって普通、人の腕を食べようだなんて思わない。
 しかし躊躇う間にも、女性はこちらをじっと見つめて来る。よしときゃ良いのに私は、好奇心とかなんとも言えぬ感情に駆られ、思わず言われた通りに女性の腕を噛みちぎってしまった。
 甘く柔らかい肉の味が口中に広がる。これが人の肉の味なのだろうか。
 ふと目を開けると、そこには女性が頽れていた。
「これで、やっと……」
 そして、死んだ。