……ことの発端は、数日前に遡る。
ライブを控えたスチームゼリーの元に、匿名で、一通の手紙が届いた。
内容は「ライブを中止しないとコロす」といった極めて単純明快なものだった。
こういった類の手紙は、スチームゼリーが自分の国を賛美する歌をリリースしてからというものの、度々届くものであった。世の中、色々な人がいるものである。
これに対し、メンバーは気にしないでライブを決行する方向に固まっていた。というのも、今回行われるのは彼らスチームゼリーが結成してから一周年を祝うイベントでもあったからである。
当然、マネージャーは反対した。
で、この度、ボーカルと旧知の仲である自分は彼らの護衛を依頼された。
どうやらことを公にしたくないらしく、頼めるのはお前だけなんだとか。
「いくらダチの頼みとはいえ、流石に聞けることと聞けないことがある」
「ほら、彼も止めた方がいいと思ってるみたいだし、中止よ、中止」
マネージャーはきっぱりと言った。
「ちなみに報酬なんだが……」
そんなのはどこ吹く風と懐から封筒を取り出すボーカル。
「……っ!」
厚みのあるそれはには思わず視線が釘付けとなった。
「もちろんこれは前払いだ」
気づくと彼の手元にあった封筒は、いつの間にか俺の手の中にあり、今まさにポケットへと突っ込まれる最中であった。
「よし、引き受けた。当日は俺に任せてお前はファンと向き合うことに集中しろ」
「は? あなたたち正気なの?」
「正気か狂気か定かではないが、少なくとも本気ではあるな」
ドヤるボーカルに不満顔を露わにするマネージャー。
「そもそも、報酬で意見をころっと変えるなんて、飛んだ拝金主義ね」
矛先がこちらへと向けられた。
「誤解があるな。俺は報酬が魅力的だから受けるんじゃなくて、それが友達の頼みだから断れないだけだ」
唖然とするマネージャー。
「よし、これで万が一何かあっても大丈夫だな。何せ優秀なガードマンがついたんだから」
優秀なガードマンという評価を頂いたが、それは誇張に誇張を重ねた妄言だった。精々、無属性魔法にカテゴライズされる、瞬間移動の魔法が無詠唱で発動できる程度である。
だが、ここで自分弱いアピールしても話が進まないので黙っておく。
「……はあ。頭が痛いわ」
「そう深刻に考えなくても、どうせただのハッタリだ。お前らは適当に客席に睨みを効かせていれば大丈夫大丈夫」
……そう言って陽気に笑いを浮かべた旧友の顔が浮かび上がった刹那、天井より降りてきた爆発音。
騒ぎを起こすわけにはいかない。例えアクシデントが起きようと、観客には何事もなくライブは成功したと思わせなければならない。
であるなら、こちらは会場の人たちが見上げるよりも早く、演出魔法(エフェクトマジック)の込められた魔弾を、射出機から頭上に向けて発射した。
魔弾は空中で花開くように弾け、色とりどりの花弁や蝶を生み出して会場の上空を鮮やかに彩った。
若干過剰すぎると言えなくもない演出は、見事に観客の目を奪い、その更に上で起こった爆発をごまかしてくれた。
急いで黒フードへと視線を戻したが、既にそこに求めた姿はなかった。
「……消えた?」
「転移魔法の痕跡が見られたわ。近場での転移の反応はないから、多分ずっと遠くまで飛んだ……と思いたいわね」
インカム越しにマネージャーの声が聞こえてきた。
予め魔法陣を設置し、転移する場所との紐づけをしなければいけない代わりに魔法陣のある場所にはどこだろうと移動できる転移魔法と、魔法陣はいらないが視認した空間にしか移動できない移動魔法とは、性質が異なるものである。閑話休題。
「他に怪しいやつは?」
「大丈夫そう」
その言葉を聞いて、ひとまず胸をなでおろした。脱力し、天井を仰いだ拍子に、スポットライトの一つが、支柱をグズグズにして、今にも落ちそうになっているのが見えた。
「やべ。マネージャー、至急、身体強化魔法を頼む」
言い終えるよりも早く、移動魔法を使ってスポットライトの支柱まで飛び、梁に足を駆けて支柱とのつなぎ目を思い切り掴んだ。微量ながら、体に活力が沸き上がってくるのを感じる。
――バキッ、と音を立ててついぞ折れてしまった支柱があっさりとライトを手放し、代わりに自分の肉体のみがそれを支える役目を担った。
「ぐっ、おっも!」
「駄目、距離が遠すぎて今の出力を維持するだけで精いっぱいよ」
「ああ。そのまま維持してくれ」
「ちょっと待ってなさい。今すぐに観客に避難を呼びかけるから」
「いや、それはなしだ。今騒ぎを起こしたら、今までの全部が無駄になる。俺は大丈夫だから、ライブは続けるぞ……!!」
「馬鹿! そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」
「……なあ、聞いてくれマネージャー。この音楽は、魔法なんだよ。生まれつき、魔法適正を持っていなかったあいつが、だからこそに持ち得た、唯一無二で、掛け替えのない魔法なんだよ」
「あいつらが楽しんでいるこの場所、この時を、俺は壊したくないし、壊されたくない」
「その為に背負う負担なんて、本当に、本当に、全くもって、どうってことねえんだよ……!」
例えるならそれは、この会場を包み込む、範囲魔法にして純粋な祈りで構築された、奇跡にも等しい白魔術だ。
終わらせねえ。終わりたくねえ。意地というものに使い道があるのだとしたら、例えばこういうことに使うのだろうと、直感が叫んでいる。
「いい加減にして。これはたかがライブよ? 馬鹿馬鹿しいにも程があるわ」
「そうだな。でもそのたかがライブに、命の危険を知って尚、ステージに立ったバカがいるんだよ……! ここで、そいつの勇気を、そいつについてきたやつらの期待を……台無しに出来るかよ……!」
バカだと一笑されてもいい。愚かだと一蹴されてもいい。それでも諦めきれないモノがある限り、自分の中にある、この意志は絶対に曲がらないし、折れない。
「呆れた。もういいわ、好きにしなさい。……仕方ないから付き合ってあげるわよ」
もし、自分の肉体が持たなければ、被害を被るのは自分だけでなく、下にいる観客にすら影響が及んでしまう。予想ではライブが終わるまではぎりぎり持つと思うが、そこに明確な根拠の提示は出来ない。
そういう前提に置いては、この決断が純粋な悪であることなど分かり切っていた。
もう、どうこねくり回したって美談にはならない。
でも、それでも、音楽はまだ鳴っている。
「「「「「BOW−WOW−WOW! BOW−WOW!!」」」」」
なら、一握りも迷いはない。
「「「「「BOW−WOW−WOW! BOW−WOW!!」」」」」
自分も会場を一つにする音の渦に混じって、声を張り上げた。
0606この名無しがすごい!2018/11/06(火) 07:43:41.59ID:QCroMS+b
>>602
お題の消化をとるか作品の一貫性をとるか、作者の選択も醍醐味となる短編スレではいつでもそれが問題だ、602氏が『楽器』『ホットドッグ』『爪切り』『白魔術』で挑む、呪法・フード外しのマジックアーツ〜
さあ、舞台は自然科学研究部、オカリナ(『楽器』)を水に沈めてブクブクさせて遊んでる、もとい『白魔術』を行っているフードの魔術師に、部長がなんだそれは問いかける〜!
いわく、『爪切り』で深爪をしなくなる魔術w なるほど白魔術だw さらには『ホットドッグ』を16分割してペットに与え、邪魔者を排除したりもできるらしい魔術理論、
そのカオスが科学思想を信奉する部長にはこらえがたいが、しかしフードをするっと外す魔術師さんの仕草でなんとなく非難したくも誤魔化されてしまう〜
最後のフードは魔術かアレか!? 真実はいつも一つ、いや、とも限らない〜、高村光太郎いわく僕の前に道はない、僕の後ろに道は出来る、科学、魔術、真実とは人により揺蕩うものでもあるゆえに信じた道をゆくがよし、602氏が選択お題を貫徹だ!!
>>603
原稿に追われているバラバラお題を全選択の603氏の挑戦は、友情と音楽とが結実した模様! ライブオン、スイートライブ、バウワウ!
さあ、弦『楽器』をかき鳴らしてボーカルが歌う、ぼくはきみの『ホットドッグ』♪ おやつは『にんにく卵黄』で♪ 『爪切り』、ブラッシングも我慢する〜♪ ぼくはきみだけのホットなドッグ、って駄洒落なのかw めまいがするような歌詞による消化w
ところが会場にテロを目論む影ひとつ! 護衛となった主人公が破壊工作を阻止するが、揉み合いの余波で天井・支柱が攻撃され、スポットライトが落下しかける苦境が発生、
いまやライブ会場を包み込んでいるのは、言ってみれば範囲魔法にして純粋な祈りで構築された、奇跡にも等しい『白魔術』だと、ライトを支え、主人公がワイルドに咆哮だ!
そもそもテロの予告から始まった防衛戦、危険承知のライブで響くは音楽だけにのみならず〜、曲げられない意地と信念、ビートに乗って、603氏がバラバラお題・全選択、熱狂ハウリングENDをビンビン決めたァ! 0609この名無しがすごい!2018/11/09(金) 08:39:56.26ID:yLUce6/z
なんか静かですね…
【魔術師のお仕事】(2/2)
そして少年と入れ違いに今度は老人がやってきた。3件目の依頼のようである。
「痛た……」
「大丈夫ですか? どうなさいました?」
「いやなに、爪切りしてたら深爪し過ぎてなぁ?」
「気をつけてくださいね!? 治癒の白魔法をかけておきますよ」
「おぉ、すまんのぉ」
「いえいえ、これがお仕事ですから」
本格的な大怪我は大規模な治療魔術院等に行ってもらわなけれなここでは処置しきれない。だけど些細な傷や軽い病気ならここでも治療出来るという事で、それを依頼してくる人も多い。それもまた魔術師協会の役目である。
そして4件目の依頼者がやってきた。この辺りでは見かけることの無い黒髪黒目の青年である。
「もう我慢の限界だ! 何でもいいから日本の物を食われてくれ!」
「落ち着いてください。えっと、ニホン……?という場所の食べ物ですね?」
「あぁ、そうだ! こっちに飛ばされてからもう全く食えてないんだよ! もう食いたくて堪らない!」
「……遠い故郷なのでしょうか? いえ、分かりました」
「……出来るのか?」
「召喚の魔術を使います。白魔術ではないんですけど、食べ物くらいなら多分大丈夫だと思いますから」
「それでいい! 頼む!」
召喚の魔術は黒魔術に分類されているので、厳密には隣の黒魔術部門の案件という事になる。けれども彼女は切実な様子のその青年の為に黒魔術を発動していく。専門ではないだけで基礎的な黒魔術も習得はしているから出来る事である。
「はい、召喚できましたよ」
「おぉ! 何年ぶりだ? 日本の食い……物……? は? なんでにんにく卵黄?」
「もしかして失敗でしたか……?」
「いや、間違っちゃいない。……うん、間違っちゃいない。おう! これが欲しかったんだ、ありがとよ!」
「そうでしたか! 失敗かと思ってしまいましたが良かったです!」
「……うん、本当にありがとう!」
「いえいえ、これがお仕事ですから」
青年は思った通りの物は手に入れられなかったが、落ち込みかけた彼女の姿を見てそれを告げる事は出来なかった。そもそも自分の頼み方が悪かったという自覚もあったからだ。
彼女の知らない土地の食べ物だとしても、食べ物1つくらいであれば依頼者の狙った通りの物を召喚する事は可能ではある。それが異界の物ですらなければ……。
0612この名無しがすごい!2018/11/10(土) 08:08:11.70ID:hBDx1Sn9
>>610
610氏は異世界ドキュメンタリー作品でお題・全選択に挑戦してきた、白魔術師は救いたい!
さあ、主役は魔術師協会に所属する『白魔術』の担当少女〜、やって来る人々の平穏を、魔術を行使して守る若き魔術師の一日が始まった〜、
最初の来客の用件は、傷の入ったハーモニカ(『楽器』)の手当て、修復魔法でパパッと直したぞ〜、来客二件目は屋台経営者の新メニューをどうするか、魔術師が捜索魔法で『ホットドッグ』を提案する〜、来客三件目は『爪切り』で深爪した人w はいはい治癒魔法!
最後の案件、異世界に転移してきた青年の願い、日本の食べ物が食べたいなる求めに応じ、黒魔術の応用で、に、『にんにく卵黄』を召還した〜、なんでそれ召還しちゃったのかw
しかし青年も気を遣い、おう! これが欲しかったんだ、と無理をするw そうだな欲しかったよなw 610氏、キラーお題『にんにく卵黄』のアクの強さをオチに転用、徹底取材お仕事風景、描ききり、丁寧な全お題クリアーをやってくれたぜ! なるほど、オチにもってくって手があったか。考えが凝り固まってるとあかんなぁ
【魔女対戦】(2/3)
「エルダーウィッチ!!」
「長老様ぁ!!」
その声に視線を向けると、人垣が二つに割れ、恐らく最年長であろう女性が、お供に付き添われ歩いて来る所だった。
「……町内会長の婆ちゃん?」
「くくっ、マナ坊、元気かえ?」
「うん、まぁ」
(昔っから、魔女っぽいと思ってたけど……)
昔からお世話に成っていた人物の登場に、真翔が目を丸くする。だが、同時に納得できるような気分にもなった。呵々大笑する長老を見ながら、真翔は苦笑した。
「で? その十番勝負ってのの審判をすれば良いんだね?」
「うむ、十番勝負を見て、そして選べば良い」
「……うん? いや、まぁ、分かった」
彼女の言い回しに少し引っかかった真翔だったが、しかしそれでも頷くと、途端に彼を縛っていたロープが解け、そして空中に浮かび上がったトランペットが、高らかにファンファーレを奏でたのだった。
******
十番勝負も折り返しに入った第六勝負。真翔はある意味、頭痛のする頭を押さえ溜息を吐く。
今、彼の目の前には二山の大量のホットドック。
「制限時間いっぱいまでにって、その時間を使い切れって意味じゃないと思うんだ……」
一番勝負の生け花から来て、日舞、算盤、掃除、洗濯……いやこれだけでも「何やってんの!?」と言う気にさせられた真翔だったが、この六番勝負は、それに輪を掛けてそう言いたくなった。
勝負のお題目は料理。二人が揃って制限時間いっぱいまで作り続けたのが、眼前にあるホットドックの山だったのだ。
「クックック、さぁ! 貪るが良い!」
「た、食べてくれるかな? かな?」
「え? これ、全部食べなくちゃいけないの?」
確かにホットドックは真翔の好物ではある。しかし、それだけを大量に出されるのも辛い物が有った。
何で俺が……と言う思いはある。だが、審判である以上、食べないと言う選択肢はない。しかし、この量を一人でと言うのは勘弁して貰いたかった。
周囲を見回すが、何故か皆、ニヨニヨとした笑みを浮かべるだけで手伝ってくれる気は無いらしい。
だが、期待に目を輝かせる二人を前に、残すと言う選択肢を選ぶ事は出来なかった。
「いや、ホント、何でこんなに作ったよ……」
そう呟きながらも、真翔は覚悟を決めたのだった。
******
顔が引き攣るのも止められず、真翔は今日、二回目に成る恐怖を味わっていた。一度目は先程の耳かき勝負。
加奈の膝枕は、むしろご褒美だと感じられたのだが、問題は花子の方。最新の説による耳かきと言われ、正座をさせられた挙句、頭が動かない様にと部屋の隅で押さえつけられ、耳かきを挿入された時は「何の拷問だよ!」と叫びたくなった。
だがしかし、今はそれ以上の恐怖を感じていた。
【お題、爪切り】……今、真翔は両手を固定され、二人が左右の爪を切っている所である。爪切りをやって貰うこと自体は、子供の頃、母親にやって貰った事も有る。
だが、こんなにも緊張感をもって爪を切られていた訳では無い。
(人に爪を切って貰うってこんなに怖かったっけ?)
真剣に爪を見られつつ、パチンパチンとそれを切られながら、彼は何となく爪切りを嫌がる猫の気持ちが分かった様な気がした。
【魔女対戦】(3/3)
そして迎えた最終勝負。
「最終勝負! 秘薬造りじゃ!」
長老がそう宣言し、二人が予め作ってあった秘薬を持ってくる。
「あ、ここで作る訳じゃないんだ……」
「当たり前でしょ!? 薬を作るのにどれだけ時間が掛かると思ってるのよ!! あ!! いえ、さぁ! 我が渾身の秘薬、堪能するが良い!!」
「はい! わたしの作った魔女の秘薬、飲んでくれるかな? かな?」
「……にんにく卵黄?」
「あ! や! それしか入れ物が残って無くって……」
花子の秘薬の入った入れ物に真翔が首を傾げると、彼女が焦った様にそう言い訳した。
「……おばさん、健康アプリマニアだもんな」
「そうよ、自分で作れるのに、なんで集めちゃうんだか……」
さっきまでの大仰そうな言い回しも忘れ、普通に受け答えをする花子。この辺の気安さは、流石お隣同士と言った所か。
だが、そんな二人を見て加奈が頬を膨らませる。
「真翔くん! わたしの秘薬、飲んでください!!」
「え? あ、うん」
若干、黄味がかった橙色の丸薬を見て、真翔が訊ねた。
「……因みに効能は?」
「え? 疲労回復、滋養強壮、健康維持……かな? かな?」
「……」
真翔の視線が、花子の持って来たにんにく卵黄のパッケージの方を見る。
「や、違うからねぇ!?」
******
十番勝負を終え、長老が「で? どうじゃ?」と訊ねて来た。
正直な話、最後の秘薬勝負以外に魔女らしさなど皆無だった事も有り、真翔は首を傾げる。そもそも、どちらの技術も五十歩百歩であり、明確に差があるとは思えなかったと言う事も有る。
最後の秘薬に至っては、速攻で効く物では無いらしく、未だに効果があるのかどうかも分からなかった。
「……二人一緒に、アークウィッチに成るってのは出来ないんですか?」
そもそも、どの程度のレベルで有れば試験合格なのかも分からないのである。それに、アークウィッチに成るのは一度に一人と決まっているのかも知らないのである。その為、真翔はそう訊ねたのだが……
「ほほう? 二人一緒にか」
「運命は常に一つだ!! マナトよ!!」
「それはダメじゃないかな? かな?」
花子と加奈、二人の声が重なった。呆れ半分、冷やかし半分と言った、周囲の魔女たちの視線も真翔に突き刺さる。
「え? 何で俺が責められる感じに?」
訳の分からない真翔だったが、しかし、アークウィッチへと至る条件が、血を絶やさぬ為に伴侶を得ると言う事だと聞かされていない彼が、それに気が付く事は無い。
「さぁ! 我を選ぶが良い!! マナトよ!」
「わたしを選んでくれるかな? かな?」
そして、その事を説明していないと彼女達が気が付くのは、真翔が逃げ出した後だった。
(2/3)
大学では何をしていたっけ? だんだん思い出が減ってる気がする。ミルラのしずくを取りそこねたのかも知れない。わざわざゲームボーイアドバンスを4つも用意するなんてバイタリティにあふれていた俺は忘却の彼方だ。
たしかそのころの俺の手にはアイフォンがあって、ワンタッチでいくらでもゲームをダウンロードできた。画面を埋めるアイコンを順番にタッチして、ログインボーナスを受け取ることがとても新鮮だった。
何だかんだでゲームはクリアできるバランスで出来ているんだから、レベル上げは程々で十分だと気づいていた。人生の夏休みだか何だかという格言を狂信して、面白おかしく過ごした。
そうして幼い万能感がぶり返したおかげか、あるいは開き直りの言動が功を奏したのか、俺の中の数少ない光を一人の女の子が見つけてくれた。
その子は白魔道士で、魔法の話で割と盛り上がった。俺は得意げにメラゾーマを放って、今のはメラだ。なんて言ってみたりもした。彼女は何でも笑ってくれた。家族以外から初めてケアルをかけてもらって、こんな魔法をかけてもらえる僕は特別な存在なんだと思った。
パチリ
今では私が赤魔道士、自分にかけるのはもちろんケアル。なぜなら俺は特別な存在じゃなかったからです。
思った以上に深くえぐれた二の腕を覗いた。モヤモヤと一緒に血が溢れて、潰れたカーペットに新しいシミを作った。誰かを傷つける高揚感がストレスを緩和し、マッチポンプの痛みが今日の失敗を許した。
誰かさんの腕は切れ目の入ったソーセージみたいになっていた。そんなことしたら肉汁が漏れて旨さを損なうのに、見栄えがいいから、箸で持ちやすいからと取り繕うことをやめられない。
本当は安物の徳用ソーセージだから、少しでも熱が入って食えるようにしてるだけなのに。
いつだって俺は切れ目の入ったロールパンを探していた。ソーセージを収めるのに都合よく成形された引き立て役を。一人じゃ何もできないくせに、ケチャップとマスタードをかけてもらって、美味しくなった気でいた。
こぼれた肉汁が大した味じゃないことを気付かれないように、必死になってくるくる転がっていた。
きっと彼女もその味に気づいていて、それでもホットドックになろうって俺が言うのを待っていたのかも知れない。でも俺は青臭くこじれたままで、「君はジャムを挟んだほうが美味いかもしれないよ?」とか言ってみた。
黒のローブの下にはステテコパンツを装備していることを知られたくなくて、しかし隠したままの楽さに甘えた。
そのうちレベルをあげなかったツケが心の底から湧き上がってきて、逃れられない強制バトルが発生する。とんずらは使えないし、8回逃げてもバグらなかった。
LとRを押さえながら、戦闘中にウェイトモードへ変更するすべを探した。たたかう? いいえ。たたかう? いいえ。逃げますか?はい。はい。はい。はい。
(3/3)
芯まで染み付いた逃げグセは、万能薬でも治らなかった。物語の中だけと思っていたヒロインの登場に、俺はうまく対処できなかった。
心の防衛システムがもっともらしい理屈を与える。試練を乗り越えなきゃ報酬は得られない、これまでの人生、対して苦戦しなかった俺にこんなことが起こるはずがない。これは頑張ったところで勝利はない負けイベだ。だから適当に、死なないようにやり過ごせばいいんだと。
結局俺はラストエリクサーを使わなかった。時間切れの演出とともに女将軍の放った聖剣技で俺のHPは1残り、クレイラは爆発した。トランス状態は解けて、リミットゲージは消えて、瀕死で放った苦し紛れのたたかうは必殺技にはならなかった。
ああ、俺は間違えなかった。やっぱり負けイベ。こんなところで本気だしたらバカを見るところだったぜ相棒!(ドンッ☆)。闇の人格にその後を委ねて、普通の人間のフリをして過ごした。
パチリ
そして俺は社会へ。俺は主人公じゃないから、物語の結末までに変化する必要がなく、故にこのままでもエンディングは迎えられるかもしれない。
けれど正直、辛い。回復役なしのソロパーティとかとんだ縛りプレイだ。
世間はそれでもやっていけるというが、黒魔法を極められず逃げて赤魔道士になった人間には当てはまらない。ケアルやホイミじゃ全然足りないし、結局自分のMPが削れていく。
俺のメモリーカードには0%が並んでいて、やり直すべきポイントは残っていない。
一人になると慰めに、誰にも読まれない攻略本を執筆する。
ニンニクは臭いからって避けるべきじゃない。卵黄を混ぜるんだ。アリシンがタンパク質と結びついてマシになるぞ。カプセルいりが手に入れば手軽に摂れるようになるのは確かだが、その頃にはもう遅いんだ。
苦戦しないとカタルシスは得られないぞ?そういう経験があるやつだけが、適切な場面でラストエリクサーを使えるんだ。エアリスを殺さない方法?この先はキミ自身の目で確かめてくれ!
いつしか俺は、かつて笑い嘲った大人帝国の一員になっていた。太陽の塔や月の石はなく、だだっ広いモリコロパークをさまよっていた。
足の臭いは自ら排出したタンパク質と結びついて無害化しカプセル入りになってどこかへ転がって消えた。そもそも嗅がせてくれるしんのすけはいない。
俺は自分がソルジャーだと思いこんでいる一般神羅兵で、おじさんCで、もうひとりのボクで、俺は悪くねぇとのたまう親善大使だ。
ラフメイカーを待ち続け、幻想の白魔術師をいつまでも引きずって、大人と子供の中間の生命体となり永遠に宇宙をさまようのだ。そして死にたいと思っても死ねないので ――
――そのまま日曜の夜を迎えるしかなかった。おわり。
うわああああすまん
レス入力欄でもじもじしてたから安価出てたの本気で気が付かなかった
ということで安価なら『謝罪』
0627この名無しがすごい!2018/11/11(日) 22:24:18.93ID:+KXMHKSa
『ポッキー』
『冬空』
にんにく卵黄に、具体的な効能は書いてありませんね
ただ、健康のために毎日摂りましょうとしか
では、お題のアナウンスは次スレを縦次第、そちらで行います。このスレに書き込まれた作品を時間があるときに下に纏めるので、もし心に残っている作品や面白かった作品があれば感想を残してくださると嬉しいです。
0635この名無しがすごい!2018/11/12(月) 01:14:38.39ID:NvltsANx
>>615
短編スレシーズン4も、はや終盤〜、進行氏および作者みんなの結晶のスレに、職人615氏によるわざもののドタバタ劇の祝儀贈呈〜、アークウィッチ・ハザード・カム!
さあ、拘束された真翔くんの目の前に、コスプレではなく『白魔術』師と黒魔術師のアークウィッチ的正装をした幼馴染の女子二人w ファンファーレを奏でるトランペット(『楽器』)が女子らの魔女十番勝負の開幕つげる〜、
生け花、日舞、算盤、掃除、洗濯についで、『ホットドッグ』の大量作成、『爪切り』と連続する魔女の試練を判定する役目を真翔くんが負うらしいが〜、爪切りでなにを判定するw でも正直、彼女に爪切りされたら癒されるなw ハイそんなことはどうでもいい、
ラスト〜、『にんにく卵黄』っぽい入れ物と効能を持った秘薬を飲ませられ、伴侶を決める戦いだとも知らず、もう何でも良いよと脱走する真翔くん〜!
これは魔女の秘薬、つまり惚れ薬に頼らず頑張れってオチなのか〜、ドタバタを愉しませつつ何時の間にかお題全消化のウデは流石の615氏、キャラの立ったドタバタ・ハーレムでスレ締めくくりに花を添え、ノリノリの、フィニッシュ!w
>>>619
堂々オオトリ! 619氏が舞城王太郎を思い出させるハイテンポでネタを乱射する〜、怪作による全選択だ、HPはレッドゾーン、ならばFIRE、FIRE、FIRE!
さあ週末、主人公が死人だらけの魔列車に乗り込み帰宅した〜、並ぶサプリの『にんにく卵黄』や亜鉛を横目に、おのが人生を追憶していく〜、ゲーム無双だった小学校、
『楽器』を持つ気にはならなかったがポル○の曲はマスタークラスだった中学高校〜、そして彼女と『ホットドッグ』になりきれかった大学時代を経て、ゲームネタをマシンガンのように楽しげに撃ち続ける社会人に辿り着く、
なのに、こんなにも今『爪切り』の音が頭で響いてしまうのはなぜ〜、それは、今や独りだからに他ならない〜、こんなにもあの『白魔術』師を引きずっているのはなぜ〜、ケアルのほっとする感じが忘れられないからに他ならない〜、
こんなにも矢鱈滅法ネタを乱射するのはなぜ〜、それはきっと、停滞する自分を撃ち抜く方法が見つからないからに他ならない! ごまかしきれない寄る辺なき生活を、膨大なネタ乱射によって照らし出したかテクニシャン619氏〜
渾身の短編スレ4ラストスパートはゴールテープを引きちぎる凄まじいネタ濫造のゴールに帰結w 次スレにタスキを回したトドメの一撃、スレ最終弾にふさわしいド級のネタ集束による号砲の弾痕は、グラシアスな重砲となって、619氏 、大ラスBravo・ENDだw