原作ではこういう状況として描かれてる中で、ラップバトルで国がどうだキセキだサンキューってなあ・・・


たえまなくうちふるえ、砕かれつつ沈みゆく島嶼の上には、まだ三千万人を越える人々が、あるいは盆地に孤立させられ、あるいは海岸付近の丘陵に仮泊し、恐怖にふるえながら、救出の順番のまわってくるのを待っているのだった。
その三千万人を一人残らず助けようとして、日本政府の軍、官、民合同の全国救出組織三百万人は、文字どおり昼夜兼行、不眠不休、死にもの狂いの「追いこみ」をかけていた。

だが、七月、八月と日がたつにつれて、救出の成功率は眼に見えて落ちていくと同時に、救出隊の犠牲、難民の犠牲のほうは、冷酷に、確実に上昇していった。
救出組織の中には、過労から倒れ、死亡するものも続出しはじめた。
――四六時中降り続け、街や野や山を埋め、屋内の床やテーブルの上、はては寝具や食器から口中まではいりこむ火山灰の中で、そしていつも噴煙や漂う灰におおわれた硫黄のにおいのする陰鬱な空の下で、
たえず小さく、また時にははげしく鳴動する大地の上を右往左往しながら、通信機にわめき、仲間とどなりあい、群衆の哀訴嘆願や罵倒や悲鳴を聞き、日々拡大する犠牲のニュースや、次から次へとくる混乱した指令や、次から次へ起こる予定変更と格闘し、
風呂にはいらず、ひげもそらず、食事や飲み物さえ一つまちがえばとりはぐれ、睡眠は一日二、三時間で、それもほとんどゆれる乗り物の中か、かたい椅子や、石ころだらけの大地の上の仮眠でしかない。
――そんなことをくる日もくる日もくりかえしていると、救出委の全メンバーは、しだいに疲れはて、自分たちが何かまったく不可能なことに挑んでいるのではないか、
このあれ狂う巨大な自然の力と途方もない混乱の中では、なにをやっても、どんなに努力しても、結局はむだなのではないか、
結局自分たちも、まだあちこちに孤立して残っている人たちといっしょに、この灰に埋められ、暗く凶暴な海に呑みこまれてほろんでゆくのではないか、といった、もの悲しい絶望的な気分に満たされてくるのだった……。