>>321
原作のアスターテ会戦時はそういう設定だった

 蓄積された不安が飽和状態に達しようとしている。
 同盟軍第二艦隊旗艦パトロクロスの艦橋は見えない雷雲に支配されていた。いつ強烈な放電が
襲いかかってくるか。第一級臨戦体制の発令で全員がスペース・スーツを着用していたが、不安は
スーツを透過して彼らの皮膚を鳥肌立たせている。
「第四艦隊も第六艦隊も全滅したらしいぞ」
「吾々は孤立している。いまや敵はわが部隊より数が多い」
「情報が欲しい、どうなっているんだ、現在の状況は?」
 私語は禁止されている。しかし何かしゃべっていないと不安にたえられない彼らだった。こんなことは予
定になかった。半数の敵を三方から包囲撃滅し、完勝の凱歌を上げるはずではなかったのか……。
「敵艦隊、接近します!」
 突然、オペレーターの声がマイクを通して艦橋内に響きわたった。
「方角は一時から二時……」
 ヤンは呟いた。その独語に、次の報告が応えた。
「方角は一時二〇分、俯角《ふ かく》一一度、急速に接近中」
 旗艦パトロクロスの艦橋を鷲づかみした緊張に、ヤンは感応しなかった。