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続き
【という註釈をつけた要求書を見て、遠征軍の後方主任参謀であるキャゼルヌ少将は思わずうなった。
 五〇〇〇万人の一八〇日分の食糧といえば、穀物だけでも一〇〇〇万トンに達するであろう。二〇万トン級の輸送船が五〇隻必要である。第一、それはイゼルローンの食糧生産・貯蔵能力を大きく凌駕していた。
「イゼルローンの倉庫全部を空にしても、穀物は七億トンしかありません。人造蛋白と水耕のプラントをフル回転しても……」
「足りないことはわかっている」
 部下の報告を、キャゼルヌはさえぎった。三〇〇〇万人の同盟軍将兵を対象とする補給計画は、キャゼルヌの手によって立てられており、その運営に関しては彼は自信を持っていた。
 しかし全軍の二倍近くにもなる非戦闘員を抱えるとなると話は別である。計画のスケールを三倍に修正せねばならず、しかも、ことは急を要している。各艦隊の補給部が過大な負担にたえかねて悲鳴をあげる情景が、キャゼルヌには容易に想像できた。
「それにしても、宣撫士官という奴らは低能ぞろいか」
 彼がそう思ったのは、要求書の末尾の部分を見て、である。
「解放地区の拡大にともない、この数値は順次、大きなものとなるであろう」――ということは、補給の負担が増大するいっぽうということではないか。勢力範囲の拡大を無邪気に喜んでいる場合ではあるまい。しかも、ここには恐しい暗示がある……。】