オリジナルの文章を随時募集中!
点数の意味
10点〜39点 日本語に難がある!
40点〜59点 物語性のある読み物!
60点〜69点 書き慣れた頃に当たる壁!
70点〜79点 小説として読める!
80点〜89点 高い完成度を誇る!
90点〜99点 未知の領域!
満点は創作者が思い描く美しい夢!
評価依頼の文章はスレッドに直接、書き込んでもよい!
抜粋の文章は単体で意味のわかるものが望ましい!
長い文章の場合は読み易さの観点から三レスを上限とする!
それ以上の長文は別サイトのURLで受け付けている!
ここまでの最高得点79点!(`・ω・´)
前スレ
ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【235】
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/bookall/1647124305/
VIPQ2_EXTDAT: checked:vvvvv:1000:512:: EXT was configured
探検
ワイが文章をちょっと詳しく評価する!【236】
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
1ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE (ワッチョイ fe2f-U1YL)
2022/05/08(日) 20:41:42.39ID:bCPlOvV502ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE (ワッチョイ 262f-U1YL)
2022/05/08(日) 21:31:32.03ID:bCPlOvV50 ワイスレ杯の上位発表は新スレッドで行う!(`・ω・´)
3S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 21:34:41.86ID:rNbjpmCi0 九位は誰だろう。
4この名無しがすごい! (ワッチョイ d35f-N81V)
2022/05/08(日) 21:34:49.59ID:R+F+0OsV0 新スレありがとうございます
5S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 21:34:57.11ID:rNbjpmCi0 あ、いちおつです。
6この名無しがすごい! (ワッチョイ 7e02-hKum)
2022/05/08(日) 21:35:13.70ID:u0fPxIFY0 てっしーさん、Sちゃん、皆さんおめでとうございます!
7しまの ◆BifnOGy1JQ (ワッチョイ bb01-U1YL)
2022/05/08(日) 21:36:24.11ID:SOi9VBXJ0 前スレの9位だったものです。
初挑戦でしたが、評価していただけてうれしいです。
また次の機会も挑戦してみます。次は変な表現を使わないように気を付けます!!
初挑戦でしたが、評価していただけてうれしいです。
また次の機会も挑戦してみます。次は変な表現を使わないように気を付けます!!
8ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE (ワッチョイ 262f-U1YL)
2022/05/08(日) 21:37:09.55ID:bCPlOvV50 それでは八位の発表!
出だしを流し読みすると後半の意味がわからなくなる!
技巧を凝らした作りは二度読みを余儀なくされるかもしれない!
読者の読解力を試すような作りではあるが読み解けた時に快感をもたらす!
パズルのような仕掛けが心地よい! 瞬間、そちらか! と叫びたくなる!
少々、説明が不足しているように思えるが切れを重視すれば致し方ないとも云える!
第八位は前スレの>782である!
おめでとう!(`・ω・´)
出だしを流し読みすると後半の意味がわからなくなる!
技巧を凝らした作りは二度読みを余儀なくされるかもしれない!
読者の読解力を試すような作りではあるが読み解けた時に快感をもたらす!
パズルのような仕掛けが心地よい! 瞬間、そちらか! と叫びたくなる!
少々、説明が不足しているように思えるが切れを重視すれば致し方ないとも云える!
第八位は前スレの>782である!
おめでとう!(`・ω・´)
9猫 ◆3xhHXNsvAA (ササクッテロロ Sp33-b/TS)
2022/05/08(日) 21:37:43.05ID:qzHqgCzIp ヒロもおるな。ということは書いたっつーことよな。
後で教えれ。
後で教えれ。
10S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 21:38:56.35ID:rNbjpmCi0 おめでとうございます!
11この名無しがすごい! (ワッチョイ 2301-kxY/)
2022/05/08(日) 21:38:59.69ID:ZNozkfgk0 >>6
ありがとうございます!
ずっとぼろぼろで、あーもう俺は無理だなあ
と思ってたんですが、フロイトが男女について
めっちゃ書いてたなあと思って
俺結構悪夢見るんで、絡めて書いてみて良かったです泣
ヒロさんさん
sさん
猫さん
その他の皆様もありがとうございます!
ありがとうございます!
ずっとぼろぼろで、あーもう俺は無理だなあ
と思ってたんですが、フロイトが男女について
めっちゃ書いてたなあと思って
俺結構悪夢見るんで、絡めて書いてみて良かったです泣
ヒロさんさん
sさん
猫さん
その他の皆様もありがとうございます!
12この名無しがすごい! (ワッチョイ bb01-U1YL)
2022/05/08(日) 21:39:50.66ID:7oxuHhuh0 >>8
おめでとー!
おめでとー!
13この名無しがすごい! (ワッチョイ 2301-kxY/)
2022/05/08(日) 21:40:07.24ID:ZNozkfgk0 >>8おめでとうございます!
14この名無しがすごい! (ササクッテロロ Sp33-b/TS)
2022/05/08(日) 21:42:32.72ID:qzHqgCzIp 0782 第五十八回ワイスレ杯参加作品 (ワッチョイ df01-s3GR) 2022/05/06 10:19:12
『秘して蜜なる情事に一振りのスパイスを』
オフィスには潜んで咲く花がある。
秘めなければならないのだが、時には大胆に振る舞いたい衝動に駆られることもあるようだ。
此処、オフィス棟同士を繋ぐ社屋の渡り廊下にも、背徳の高揚感を求めて男に抱きつく女の姿があった。
「やめろよ。課長が見てる」
飯田は綾子を急いで引き剥がした。
昼休み以外は殆ど往来がないはずの渡り廊下の反対側に、上司の中野を見つけたからだった。
「いいじゃない。ちょっとぐらい」
綾子は怖気づくことなく、再び飯田の背中に腕を絡める。
「マズイよ。課長は愛妻家の堅物なんだ。君だってふしだらな女だと思われたくないだろう?」
飯田は中野とは大学で同じサークルに属していた旧知の間柄で、その家庭事情にも詳しい。
飯田自身は独身ではあるが、入社時に世話になった経緯も相俟って軽率な行動で幻滅されることを恐れていた。
「別に構わないわよ。私、そういうオンナだもの」
慌てふためく飯田の耳に、綾子は艶めいた唇を寄せた。
「やっぱりやめよう……こういうことは二人きりの時に、ね」
飯田はなだめすかすように綾子の手を優しく振りほどいた。
「……仕方のない人ね。まあいいわ。この埋め合わせはいつかしてよね」
からかい半分のウィンクを残し、綾子は先にオフィスルームへと戻って行った。
その日、定時に退社した綾子は幾分気を良くしていた。
ウィンドウショッピングと軽めの夕食を楽しみ、丁度午後七時にビジネスホテルのチェックインを済ませると、すぐにメッセージアプリで部屋番号を送った。
シャワーを浴びて化粧を整え直し終えても、未だ待ち人は来ていない。
暫くはベッドの端に座りながらスマホを眺めていたが、やがて飽いて後ろに寝転んでしまった。
さらに一時間近くが経った頃、待ちわびていた独特のノック音が聞こえてベッドから跳ね起きた。
「んもう、遅かったじゃない」
扉を開けて相手の姿を確認するなり、綾子は柳眉を逆立てた。
「すまない、残業につき合わされ……」
言い訳する唇を、綾子の引き直したルージュが塞ぐ。
その場で互いを激しく貪り合い始め、密接したままベッドへと傾れ込んだ。
秘して蜜なる濃密な時間を堪能した後、二人は終電までの束の間のピロートークで余韻に浸った。
「昼間はやりすぎだったんじゃないか? 内心ヒヤヒヤしたよ」
「大丈夫。あの人、鈍感そうだから」
「前にも話しただろう? あの人は大学時代に何かと面倒見てくれた大恩ある先輩だ、って。頼むからあんまりからかわないでやってくれ」
「あら? アナタだって今夜はいつもより激しく求めてきたじゃない。スパイスが効かなかった、とは言わせないわよ。そ・れ・に・ね……」
綾子は焦らすように悪戯っぽい含み笑いを挟んだ。
「私が“嫉妬するアナタ”を見たかったの。私ばっかりが見せる側じゃ不公平でしょう? 愛妻家さん」
(了)
『秘して蜜なる情事に一振りのスパイスを』
オフィスには潜んで咲く花がある。
秘めなければならないのだが、時には大胆に振る舞いたい衝動に駆られることもあるようだ。
此処、オフィス棟同士を繋ぐ社屋の渡り廊下にも、背徳の高揚感を求めて男に抱きつく女の姿があった。
「やめろよ。課長が見てる」
飯田は綾子を急いで引き剥がした。
昼休み以外は殆ど往来がないはずの渡り廊下の反対側に、上司の中野を見つけたからだった。
「いいじゃない。ちょっとぐらい」
綾子は怖気づくことなく、再び飯田の背中に腕を絡める。
「マズイよ。課長は愛妻家の堅物なんだ。君だってふしだらな女だと思われたくないだろう?」
飯田は中野とは大学で同じサークルに属していた旧知の間柄で、その家庭事情にも詳しい。
飯田自身は独身ではあるが、入社時に世話になった経緯も相俟って軽率な行動で幻滅されることを恐れていた。
「別に構わないわよ。私、そういうオンナだもの」
慌てふためく飯田の耳に、綾子は艶めいた唇を寄せた。
「やっぱりやめよう……こういうことは二人きりの時に、ね」
飯田はなだめすかすように綾子の手を優しく振りほどいた。
「……仕方のない人ね。まあいいわ。この埋め合わせはいつかしてよね」
からかい半分のウィンクを残し、綾子は先にオフィスルームへと戻って行った。
その日、定時に退社した綾子は幾分気を良くしていた。
ウィンドウショッピングと軽めの夕食を楽しみ、丁度午後七時にビジネスホテルのチェックインを済ませると、すぐにメッセージアプリで部屋番号を送った。
シャワーを浴びて化粧を整え直し終えても、未だ待ち人は来ていない。
暫くはベッドの端に座りながらスマホを眺めていたが、やがて飽いて後ろに寝転んでしまった。
さらに一時間近くが経った頃、待ちわびていた独特のノック音が聞こえてベッドから跳ね起きた。
「んもう、遅かったじゃない」
扉を開けて相手の姿を確認するなり、綾子は柳眉を逆立てた。
「すまない、残業につき合わされ……」
言い訳する唇を、綾子の引き直したルージュが塞ぐ。
その場で互いを激しく貪り合い始め、密接したままベッドへと傾れ込んだ。
秘して蜜なる濃密な時間を堪能した後、二人は終電までの束の間のピロートークで余韻に浸った。
「昼間はやりすぎだったんじゃないか? 内心ヒヤヒヤしたよ」
「大丈夫。あの人、鈍感そうだから」
「前にも話しただろう? あの人は大学時代に何かと面倒見てくれた大恩ある先輩だ、って。頼むからあんまりからかわないでやってくれ」
「あら? アナタだって今夜はいつもより激しく求めてきたじゃない。スパイスが効かなかった、とは言わせないわよ。そ・れ・に・ね……」
綾子は焦らすように悪戯っぽい含み笑いを挟んだ。
「私が“嫉妬するアナタ”を見たかったの。私ばっかりが見せる側じゃ不公平でしょう? 愛妻家さん」
(了)
15ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE (ワッチョイ 262f-U1YL)
2022/05/08(日) 21:42:34.34ID:bCPlOvV50 ワイスレ杯で時代物をよく見るようになった!
今回のお題では珍しいと云える!
過酷な状況と渋い設定で興味を引かれた!
故に犬に噛まれた程度ではない頻度がちょっと!
読み終えたワイは精力絶倫と思うことにした!
第七位は前スレの>758である!
おめでとうニンニン!(`・ω・´)
今回のお題では珍しいと云える!
過酷な状況と渋い設定で興味を引かれた!
故に犬に噛まれた程度ではない頻度がちょっと!
読み終えたワイは精力絶倫と思うことにした!
第七位は前スレの>758である!
おめでとうニンニン!(`・ω・´)
16この名無しがすごい! (ササクッテロロ Sp33-b/TS)
2022/05/08(日) 21:44:06.12ID:qzHqgCzIp17S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 21:44:33.91ID:rNbjpmCi0 U大王さんおめでとうございます!
18R ◆QpRTguxn5c (ワッチョイ dabd-ojei)
2022/05/08(日) 21:45:22.65ID:fI/Tp0cR019この名無しがすごい! (ワッチョイ bb01-U1YL)
2022/05/08(日) 21:45:25.18ID:7oxuHhuh020U大王 ◆ssgKZRwK5oWd (ワッチョイ b77d-47Jf)
2022/05/08(日) 21:45:50.89ID:QXa+jffR0 ありがとうございますー!
でも一つだけ言い訳させてください。
犬に〜〜は一回目でさっさと諦めればよかったのに
何で、何度も何度も挑んできたん、おぬしぃ?
っていう意味だったんです。あくまで一回目で実力差分かったやろなんですぅ!
でも一つだけ言い訳させてください。
犬に〜〜は一回目でさっさと諦めればよかったのに
何で、何度も何度も挑んできたん、おぬしぃ?
っていう意味だったんです。あくまで一回目で実力差分かったやろなんですぅ!
21この名無しがすごい! (ワッチョイ 2301-kxY/)
2022/05/08(日) 21:45:51.20ID:ZNozkfgk0 >>15おめでとうございます!
あの絶倫さ、本当にくすっと笑って面白かったです
あの絶倫さ、本当にくすっと笑って面白かったです
22この名無しがすごい! (ササクッテロロ Sp33-b/TS)
2022/05/08(日) 21:46:27.62ID:qzHqgCzIp 0758 この名無しがすごい! (ワッチョイ c77d-8bNg) 2022/05/05 00:00:08
鬼から人へ 修正
戦乱の世に鬼と呼ばれる恐るべき忍びがいた。仕えるべき御家を持たぬはぐれ忍びであり、その腕前、身のこなしは並々ならぬものがある。だが、立ち塞がる敵ばかりか、己の師や同胞をも殺めた彼はいつしか追われる身となった。
里から遠く離れ、逃げる傍らで鬼が追跡する者達に気付く。追われる事は不思議ではない、ならば如何様にして始末するか。そう考えて彼は人気のない場所へと誘い込み、わざと追いつかせた。
「とうとう見つけたぞ。鬼めが。こちらは多勢じゃが、よもや文句は言うまいな?」
もはや恨みを買いすぎて誰から差し向けられたものなのか、鬼自身にすら分からない。返事より先に鬼が襲い掛かる。その動きは常人離れした忍びよりも尚早い。あっさりと四人を斬り伏せ残る一人を地に引き倒す。
痛みにあえぐ様子から女と分かり、鬼は面貌を隠していた頭巾を剥ぎ取ると笑みを浮かべた。
「ほう、下忍風情にかかる器量を持つ者がおるか」
そう言うや否や、鬼は女の着る服を引き裂いていく。装束の下にある柔肌が露になると女は顔を赤らめ手で隠そうとする。
「生娘でもあるまいに随分と初心な反応を見せる」
女の様子を見て、鬼がせせら笑う。
「くっ!」
鬼の嘲笑を受けて、それ以上はさせまいと女は暴れたが、悲しいかな、両者の実力差は明らかであった。
そうして我欲を満たすと鬼がすっくと立ち上がる。後は事を済ませ、後腐れないように殺すだけ、だと云うのに、この時ばかりはその気になれなかった。
己の胸に去来した正体不明の感情を持て余すが、鬼はぐったりしている女をその場に残して去った。
目覚めた女は仲間を殺され自らは捨て置かれたことで復讐に狂った。鬼を探し機会が巡る度つけ狙い、その度に組み敷かれ実力差を思い知らされる。それでも女は鬼を狙い続けた。
鬼は不思議に思った。なぜ自分へ執着するのかと。実力差は歴然、過去の事も犬に噛まれたようなものだと思えば、諦めもつこうにと。忍びであればなおのことだ。復讐など愚にもつかない。
時は流れ、次第に鬼の技が錆び付いていくのとは裏腹に女の技は磨かれていった。
けれど、それでも如何ともし難い実力差がある。
「こうして再び出会うのはもう何度目か。なぜそこまで儂を追い続ける」
その度に殺せなかった己を自嘲しながら、鬼が問いを投げると笑う鬼とは対照的に、女は眉一つ動かさぬまま応じた。
「一つは仲間の仇討ち、二つには子がいます。他郷の男に辱められたままでは受け入れられない」
飛び掛かってきた女をいなしながら、思いもよらぬ返しに鬼の眉がわずかに動く。
(確かにあれだけやっていれば出来ることもあろう。しかし、だというのであれば……)
女が身篭ったのは自分の子。であれば余所者の血など許されるはずもなく、孕んでも間引かれたであろう存在がなぜ未だに生かされているのか。苦無をかわし鍔迫り合いながら鬼が考える。
おおよそ戦いとは縁遠い思考だった。らしくもなく息子の母を殺すのかと己への問いが湧き上がってくる。それは戦いのさなかに決定的な隙を生み出す短慮であった。
気付けば女の持つ刀が胸を貫いていた。血が、鬼の血が女の刀を濡らしていた。鬼が吐血すると、ぱっと朱が辺りに飛び散った。
立ったまま胸を穿った刀を見つめながら鬼は理解した。致命傷ではあるが、まだかろうじて手は動く。ほんの数秒、僅かな猶予が残されている。
頭の中で、せめて相打ちにせよと何者かが囁く。だが、鬼であった者は動かない。猶予を浪費し、もんどりうって倒れるとそのまま女に首を断たれた。
女は胴体と泣き別れになった鬼の頭を乱雑に掴み上げる。その表情は歓喜に震えるでも涙するわけでもなく、冷たい表情のままだ。
彼女は場を離れようとして、しかし、何を思ったのか、引き返すともう物言わぬ子供の父にそっと両の手を合わせた。
数多の命を奪い、気ままに生きてきた鬼は最期に何を考えたのであろうか。あるいは殺されてやることが女や子への愛情だったのかもしれない。
すでに答えを知る方法は消えうせていた。
1
鬼から人へ 修正
戦乱の世に鬼と呼ばれる恐るべき忍びがいた。仕えるべき御家を持たぬはぐれ忍びであり、その腕前、身のこなしは並々ならぬものがある。だが、立ち塞がる敵ばかりか、己の師や同胞をも殺めた彼はいつしか追われる身となった。
里から遠く離れ、逃げる傍らで鬼が追跡する者達に気付く。追われる事は不思議ではない、ならば如何様にして始末するか。そう考えて彼は人気のない場所へと誘い込み、わざと追いつかせた。
「とうとう見つけたぞ。鬼めが。こちらは多勢じゃが、よもや文句は言うまいな?」
もはや恨みを買いすぎて誰から差し向けられたものなのか、鬼自身にすら分からない。返事より先に鬼が襲い掛かる。その動きは常人離れした忍びよりも尚早い。あっさりと四人を斬り伏せ残る一人を地に引き倒す。
痛みにあえぐ様子から女と分かり、鬼は面貌を隠していた頭巾を剥ぎ取ると笑みを浮かべた。
「ほう、下忍風情にかかる器量を持つ者がおるか」
そう言うや否や、鬼は女の着る服を引き裂いていく。装束の下にある柔肌が露になると女は顔を赤らめ手で隠そうとする。
「生娘でもあるまいに随分と初心な反応を見せる」
女の様子を見て、鬼がせせら笑う。
「くっ!」
鬼の嘲笑を受けて、それ以上はさせまいと女は暴れたが、悲しいかな、両者の実力差は明らかであった。
そうして我欲を満たすと鬼がすっくと立ち上がる。後は事を済ませ、後腐れないように殺すだけ、だと云うのに、この時ばかりはその気になれなかった。
己の胸に去来した正体不明の感情を持て余すが、鬼はぐったりしている女をその場に残して去った。
目覚めた女は仲間を殺され自らは捨て置かれたことで復讐に狂った。鬼を探し機会が巡る度つけ狙い、その度に組み敷かれ実力差を思い知らされる。それでも女は鬼を狙い続けた。
鬼は不思議に思った。なぜ自分へ執着するのかと。実力差は歴然、過去の事も犬に噛まれたようなものだと思えば、諦めもつこうにと。忍びであればなおのことだ。復讐など愚にもつかない。
時は流れ、次第に鬼の技が錆び付いていくのとは裏腹に女の技は磨かれていった。
けれど、それでも如何ともし難い実力差がある。
「こうして再び出会うのはもう何度目か。なぜそこまで儂を追い続ける」
その度に殺せなかった己を自嘲しながら、鬼が問いを投げると笑う鬼とは対照的に、女は眉一つ動かさぬまま応じた。
「一つは仲間の仇討ち、二つには子がいます。他郷の男に辱められたままでは受け入れられない」
飛び掛かってきた女をいなしながら、思いもよらぬ返しに鬼の眉がわずかに動く。
(確かにあれだけやっていれば出来ることもあろう。しかし、だというのであれば……)
女が身篭ったのは自分の子。であれば余所者の血など許されるはずもなく、孕んでも間引かれたであろう存在がなぜ未だに生かされているのか。苦無をかわし鍔迫り合いながら鬼が考える。
おおよそ戦いとは縁遠い思考だった。らしくもなく息子の母を殺すのかと己への問いが湧き上がってくる。それは戦いのさなかに決定的な隙を生み出す短慮であった。
気付けば女の持つ刀が胸を貫いていた。血が、鬼の血が女の刀を濡らしていた。鬼が吐血すると、ぱっと朱が辺りに飛び散った。
立ったまま胸を穿った刀を見つめながら鬼は理解した。致命傷ではあるが、まだかろうじて手は動く。ほんの数秒、僅かな猶予が残されている。
頭の中で、せめて相打ちにせよと何者かが囁く。だが、鬼であった者は動かない。猶予を浪費し、もんどりうって倒れるとそのまま女に首を断たれた。
女は胴体と泣き別れになった鬼の頭を乱雑に掴み上げる。その表情は歓喜に震えるでも涙するわけでもなく、冷たい表情のままだ。
彼女は場を離れようとして、しかし、何を思ったのか、引き返すともう物言わぬ子供の父にそっと両の手を合わせた。
数多の命を奪い、気ままに生きてきた鬼は最期に何を考えたのであろうか。あるいは殺されてやることが女や子への愛情だったのかもしれない。
すでに答えを知る方法は消えうせていた。
1
23ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE (ワッチョイ 262f-U1YL)
2022/05/08(日) 21:47:29.15ID:bCPlOvV50 貴族か、お前は貴族なのか!
目を疑う状況ではあったが読み進める内に納得した!
時間が違えば見た目も変わる! その異質な空間で優雅に楽しむ!
偶然、引き合わされた二人が物語を作る! 実に自然で心地よい!
多少の起伏に「もしも」の要素を入れ込んだ! 読者を飽きさせない配慮がキラリと光る!
第六位は前スレの>769である!
おめでとう!(`・ω・´)名無しの協力に感謝!
目を疑う状況ではあったが読み進める内に納得した!
時間が違えば見た目も変わる! その異質な空間で優雅に楽しむ!
偶然、引き合わされた二人が物語を作る! 実に自然で心地よい!
多少の起伏に「もしも」の要素を入れ込んだ! 読者を飽きさせない配慮がキラリと光る!
第六位は前スレの>769である!
おめでとう!(`・ω・´)名無しの協力に感謝!
24この名無しがすごい! (ササクッテロロ Sp33-b/TS)
2022/05/08(日) 21:47:55.29ID:qzHqgCzIp25バステト女神 (ワッチョイ dabd-U+IH)
2022/05/08(日) 21:48:17.75ID:i99+gX1i0 初めて、初めて入賞!
ありがとうございます!!
ありがとうございます!!
27この名無しがすごい! (ワッチョイ 2301-kxY/)
2022/05/08(日) 21:48:55.75ID:ZNozkfgk0 >>23
おめでとうございます!
おめでとうございます!
28S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 21:49:28.02ID:rNbjpmCi0 7時12分の貴族、素敵でした!
おめでとうございます!
おめでとうございます!
29この名無しがすごい! (ササクッテロロ Sp33-b/TS)
2022/05/08(日) 21:50:02.29ID:qzHqgCzIp 0769 第五十八回ワイスレ杯参加作品【バステト女神】 (ワッチョイ 5fbd-6zUF) 2022/05/05 23:08:36
7時12分の貴族たち
始業時間は9時なのだけれど、従業員出入り口のロックは7時から開けられるようになっている。 俺はいつもどおり、7時をちょっと回った頃に、社員証をセンサーに通した。別に俺は、始業前から仕事に手をつけるような、真面目な社員ではない。静かなオフィスで、ゆったりと紅茶を飲むのが好きなだけだ。
今日の紅茶はマリアージュ・フレールのマルコ・ポーロ。お茶請けはエシレのフィナンシェ。
こういう趣味は、友達とはあまり共有できないし、俺の恋人はもっとチープなお菓子を好む。原宿のパンケーキとか、杏仁豆腐の列に並びたがるタイプだ。だからこうやって、ひとりお茶を愉しんでいる。家でやればいいと思うかもしれないが、この静まり返っているオフィスとのギャップが、俺をたまらなく優雅な気分にさせてくれる。まるで貴族にでもなった気分だ。
しかし、その日は例外だった。
「あ、石塚」
俺が紅茶を飲んでいると、後ろから声をかけられた。思わず紅茶を吹き出しそうになる。
「誰かと思ったわ。ごめん、びっくりさせた?」
今は7時12分。他の社員たちが出勤して来るのは、だいたい8時を過ぎてからだ。
「気まぐれで早めに来てみただけだよ」
ということらしい。
「てかなに、めちゃ優雅じゃん。なにしてんの」
彼女は俺の同期なのだが、担当している仕事が違うので、なかなか話すことがない。
「俺はいつも、今くらいの時間に出社してるんだよ。おかしいか?」
「おかしい、めちゃおかしい。てかそのティーカップどこに隠し持ってたの?」
そう言って彼女はケラケラと笑った。
ここから甘い物語が始まるのか、というとそんなことはない。彼女には恋人がいるし、俺もそうだ。それに彼女のようなハキハキしたタイプは、こう言うと悪いけれど、恋人を探すにあたって候補には入らない。
「石塚、こういうことしてたんだ」
「悪かったな」
俺は少し照れくさくなった。“貴族ごっこ”がバレてしまった、という感じがある。ウェッジウッドのティーカップの青い輝きも、なんだかくすんで見えてきた。
「私にもちょっと頂戴」
「いいけど」
俺はフィナンシェを割って、彼女に手渡す。彼女はそれをぽんと口に放り込んだ。もぐもぐと、しばらく噛んで、飲み込んで。
「これ美味しい!」
こういうちょっと良いお菓子を、口にしたことがないのだろうか、などと思っていると。
「アレじゃない? あのバターがすごいやつ。なんだっけかなー」
「エシレだよ。エシレ・メゾン デュ ブール」
「そうだエシレだ! こういうの見ると、丸の内に職場があって良かったと思うよねー」
話を聞いてみると、彼女もお茶やお菓子が好きらしい。
「でもさー。彼氏がこういうのぜんぜんわかんなくてさー。バレンタインにサンパカのチョコとかあげても、ロッテと一緒とか言っちゃうタイプなんだよねー」
俺の趣味が気に入ったのか、彼女も俺のティータイムに参加するようになった。さっそくノリタケのティーカップを持ち込んだりして、お茶請けは交代で買うというルールもできた。最初は静かな時間が失われるかと危惧していたのだが、これがどうして、なかなか優雅に楽しめている。仕事の愚痴は言わない。恋人の話は、少しばかり。そんな雰囲気が自然とできて、朝7時の時間は、変わらず気持ちが良かった。
ある夜、LINEに通知があった。彼女からだった。
『あいつと別れた』
それ以上なにも言ってこないので、心配になって通話をかけてみる。彼女は泣き声混じりに、こう言った。
「ごめん、今日だけは、石塚に慰められると駄目になるから」
通話が切れた。
彼女は3日会社を休んだ。そして4日目の朝、俺はオフィスで時計を見る。7時12分。
「おはよう!」
後ろから、パンと肩を叩かれた。
「元気出せよ」
「お前が元気出せよ」
「それ言われると思ったから、先に言ったの」
彼女の満面の笑みには、なんの屈託もない。俺はあの通話を思い出した。彼女を慰めていたら、いったいなにが駄目になっていたのだろう。それが、少しばかり気にかかっていた。
「これ、ピエール・エルメのマカロン。その紅茶ジークレフの?」
彼女がバッグから出した、白く上品なパッケージ。今日も豊かな時間が始まる。求められるのは、品の良いユーモアだ。
無粋なことを訊くのは、よしておくことにした。
7時12分の貴族たち
始業時間は9時なのだけれど、従業員出入り口のロックは7時から開けられるようになっている。 俺はいつもどおり、7時をちょっと回った頃に、社員証をセンサーに通した。別に俺は、始業前から仕事に手をつけるような、真面目な社員ではない。静かなオフィスで、ゆったりと紅茶を飲むのが好きなだけだ。
今日の紅茶はマリアージュ・フレールのマルコ・ポーロ。お茶請けはエシレのフィナンシェ。
こういう趣味は、友達とはあまり共有できないし、俺の恋人はもっとチープなお菓子を好む。原宿のパンケーキとか、杏仁豆腐の列に並びたがるタイプだ。だからこうやって、ひとりお茶を愉しんでいる。家でやればいいと思うかもしれないが、この静まり返っているオフィスとのギャップが、俺をたまらなく優雅な気分にさせてくれる。まるで貴族にでもなった気分だ。
しかし、その日は例外だった。
「あ、石塚」
俺が紅茶を飲んでいると、後ろから声をかけられた。思わず紅茶を吹き出しそうになる。
「誰かと思ったわ。ごめん、びっくりさせた?」
今は7時12分。他の社員たちが出勤して来るのは、だいたい8時を過ぎてからだ。
「気まぐれで早めに来てみただけだよ」
ということらしい。
「てかなに、めちゃ優雅じゃん。なにしてんの」
彼女は俺の同期なのだが、担当している仕事が違うので、なかなか話すことがない。
「俺はいつも、今くらいの時間に出社してるんだよ。おかしいか?」
「おかしい、めちゃおかしい。てかそのティーカップどこに隠し持ってたの?」
そう言って彼女はケラケラと笑った。
ここから甘い物語が始まるのか、というとそんなことはない。彼女には恋人がいるし、俺もそうだ。それに彼女のようなハキハキしたタイプは、こう言うと悪いけれど、恋人を探すにあたって候補には入らない。
「石塚、こういうことしてたんだ」
「悪かったな」
俺は少し照れくさくなった。“貴族ごっこ”がバレてしまった、という感じがある。ウェッジウッドのティーカップの青い輝きも、なんだかくすんで見えてきた。
「私にもちょっと頂戴」
「いいけど」
俺はフィナンシェを割って、彼女に手渡す。彼女はそれをぽんと口に放り込んだ。もぐもぐと、しばらく噛んで、飲み込んで。
「これ美味しい!」
こういうちょっと良いお菓子を、口にしたことがないのだろうか、などと思っていると。
「アレじゃない? あのバターがすごいやつ。なんだっけかなー」
「エシレだよ。エシレ・メゾン デュ ブール」
「そうだエシレだ! こういうの見ると、丸の内に職場があって良かったと思うよねー」
話を聞いてみると、彼女もお茶やお菓子が好きらしい。
「でもさー。彼氏がこういうのぜんぜんわかんなくてさー。バレンタインにサンパカのチョコとかあげても、ロッテと一緒とか言っちゃうタイプなんだよねー」
俺の趣味が気に入ったのか、彼女も俺のティータイムに参加するようになった。さっそくノリタケのティーカップを持ち込んだりして、お茶請けは交代で買うというルールもできた。最初は静かな時間が失われるかと危惧していたのだが、これがどうして、なかなか優雅に楽しめている。仕事の愚痴は言わない。恋人の話は、少しばかり。そんな雰囲気が自然とできて、朝7時の時間は、変わらず気持ちが良かった。
ある夜、LINEに通知があった。彼女からだった。
『あいつと別れた』
それ以上なにも言ってこないので、心配になって通話をかけてみる。彼女は泣き声混じりに、こう言った。
「ごめん、今日だけは、石塚に慰められると駄目になるから」
通話が切れた。
彼女は3日会社を休んだ。そして4日目の朝、俺はオフィスで時計を見る。7時12分。
「おはよう!」
後ろから、パンと肩を叩かれた。
「元気出せよ」
「お前が元気出せよ」
「それ言われると思ったから、先に言ったの」
彼女の満面の笑みには、なんの屈託もない。俺はあの通話を思い出した。彼女を慰めていたら、いったいなにが駄目になっていたのだろう。それが、少しばかり気にかかっていた。
「これ、ピエール・エルメのマカロン。その紅茶ジークレフの?」
彼女がバッグから出した、白く上品なパッケージ。今日も豊かな時間が始まる。求められるのは、品の良いユーモアだ。
無粋なことを訊くのは、よしておくことにした。
30この名無しがすごい! (ワッチョイ b77d-47Jf)
2022/05/08(日) 21:50:30.73ID:QXa+jffR031この名無しがすごい! (ワッチョイ 2301-kxY/)
2022/05/08(日) 21:50:44.35ID:ZNozkfgk032この名無しがすごい! (ワッチョイ bb01-U1YL)
2022/05/08(日) 21:50:45.85ID:7oxuHhuh0 >>23
おめでとー!
おめでとー!
33この名無しがすごい! (ササクッテロ Sp33-iyTh)
2022/05/08(日) 21:51:46.30ID:R2w8gnxlp 804を書いた者です。何度かの参加を経て今回初めて入賞致しました。ワイさん、そして有志で寸評して頂いた方やスレ民の方へ感謝を。ありがとうございました。
34ヒロ ◆od7VcHd6ZGh4 (スププ Sd8a-KFee)
2022/05/08(日) 21:51:47.11ID:hHmYQ/Sqd >>25
バステト女神さんおめでとうございます!
バステト女神さんおめでとうございます!
35ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE (ワッチョイ 262f-U1YL)
2022/05/08(日) 21:52:40.34ID:bCPlOvV50 ワイスレ杯に参加している者にはよくわかる!
何げない遣り取りが過剰とまでいかない範囲で広がった!
実際に会う二人! 判断を任された相手は困る!
まさかの三人の事情に誰もが驚きに包まれる!
第五位は前スレの>770である!
小ネタが満載、おめでとう!(`・ω・´)
何げない遣り取りが過剰とまでいかない範囲で広がった!
実際に会う二人! 判断を任された相手は困る!
まさかの三人の事情に誰もが驚きに包まれる!
第五位は前スレの>770である!
小ネタが満載、おめでとう!(`・ω・´)
36この名無しがすごい! (ササクッテロロ Sp33-b/TS)
2022/05/08(日) 21:52:58.70ID:qzHqgCzIp37この名無しがすごい! (ワッチョイ d35f-vjB4)
2022/05/08(日) 21:53:14.46ID:R+F+0OsV0 >>25
その名前はどうしたんだwww
その名前はどうしたんだwww
38S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 21:54:17.05ID:rNbjpmCi0 西郷の女素敵でした!
おめでとうございます!
おめでとうございます!
39この名無しがすごい! (ワッチョイ bb01-U1YL)
2022/05/08(日) 21:54:17.33ID:7oxuHhuh040この名無しがすごい! (ワッチョイ bb01-uM1l)
2022/05/08(日) 21:55:08.11ID:5N+Gz0Rn0 770を書いた者です!! 読んで頂き、ありがとうございます!!
41この名無しがすごい! (ササクッテロロ Sp33-b/TS)
2022/05/08(日) 21:55:24.70ID:qzHqgCzIp 0770 第五十八回ワイスレ杯参加作品 (ワッチョイ e701-p823) 2022/05/05 23:09:39
西郷の女と呼ばれる立ちんぼが上野公園には存在する。見た目は三十五歳を少し過ぎたぐらいの美女で、いつも西郷隆盛像の近くにいることから、西郷の女と言われている。
それだけならば都内に数多いる売春婦と変わらないが、その女には変わったところがある。相手によって一晩の料金が変わるのだ。
女は客の顔を一目見て料金を決める。五万と言われる男もいれば一万と言われる男もいる。男二人が西郷の女の前に立ち、それぞれ値踏みされると面白いことになる。安い料金を言われた方は勝ち誇り、高い料金の男をせせら笑う。そして女は言う。
「さぁ、どうするの? どっちが私を抱くんだい?」
すると面白いもので、ほとんどの場合、高い料金設定をされた男の方が女を買う。それほどまでに俺と寝たくないのなら! とムキになり、大枚を叩いてホテルへと消えてゆく。
そんな女だから当然のごとく風俗掲示板にも専スレが立ち、今は西郷の女パート250だ。都内の立ちんぼの専スレの中では最も盛んに書き込みが行われ、俺は三万だった私は五千だったと盛り上がる。
ある日、その専スレに奇妙な書き込みがあった。自分は西郷の女に金を貰ったぞと。金を払っているお前達は何となんと魅力のない生き物なのだろう。全く下らない。今すぐ死にたまえと。
この書き込みには普段温厚な変態紳士たる私も怒りで震えた。かく言う私は、西郷の女から0円査定をもらっている男なのだ。もうずっと前からタダで致している。それなりのプライドがある。
私は怒りに任せて専スレに書き込んだ。ふざけるな。我こそは0円査定の男であるぞ。西郷の女からは最高の男だと言われている。そんな私でも0円だ。金を貰ったなどと嘘を吐くのではない。
すると、すぐさま反応があった。書き込みは事実だ! 自分はいつだって金を貰っているぞ。今日だって貰った。悔しいからといって、人を嘘吐き呼ばわりするものではない。これだから下等な男は救えないと。
宜しい! ならば直接会って二人まとめて値付けして貰おう。今すぐ上野公園に来たまえ!
望むところだ。というのは男の最後の書き込み。
上野公園交番前を通り階段を上がると西郷隆盛像が見えてくる。その傍らにはいつも通り、西郷の女がいる。まだ、客はついていないらしい。女は私を認めると渋い顔をしてぷいとそっぽを向いた。可愛いものだ。私は近くのベンチに腰を下ろして、例の男が現れるのを待った。
十分、三十分と待ち、私に恐れをなしたかとほくそ笑んでいた頃だ。齢十二、三に見える少年が西郷隆盛像にツカツカとやって来て、大きく息を吸い込んだ。
「我こそは西郷の女に金を貰う男だ! ゼロ円査定の男よ、出て来い!!」
それを聞いて一番最初に動いたのは西郷の女だった。
「隆史! なに馬鹿なことを言ってるの! お母さんの仕事の邪魔をするもんじゃないよ!!」
「馬鹿なものか! 俺は何一つ嘘を言っていないぞ! 今日だって夕食代で千円貰った!」
これは参った。これが反抗期というものか。いくら私でも、子を思う母親の前では無力。しかし、ここで出て行かなければ、先の啖呵が嘘になる。私は立ち上がり、大股で歩きながら声を上げた。
「待ちくたびれたぞ! 書き込みの男! 我こそはゼロ円査定にして、西郷の女から最高と評される男ぞ。ただ血続きに頼る童が偉そうに語るではない」
「ふん! こんなジジイがゼロ円とは笑わせる!」
「なんとでも言うがいい! 決めるのは、西郷の女だ!」
そう言って女を見つめると、頭を抱えている。
「母さん! 早く!!」
「うるさいねぇ! もう! この人はいつも通りゼロ円で、隆史は一千万円だ! 払えるのかい? 払えないならさっさと家に帰って宿題でもおし!」
ポロポロと泣き始めた少年は「警察に言ってやる!」と吐き捨てて、駆けていく。全く、ゼロ円ならば売春ではないというのに。
「今日はもう、店仕舞いだ。あんた、付き合ってもらうよ」
女は私の手を引いて、すぐ近くにあるいつものホテルへと入っていく。フロントも慣れたもので、何も言わずにスッと鍵を出した。
部屋に入るや否や女は私の服を剥ぎ取り、貪るように唇を奪った。そして背中に爪を立てながら言う。
「あんた、初めて会った自分の息子には、優しくするもんだよ」
「……」
「ふふふ。その顔、傑作だよ」
「……本当なのか?」
「どうだかねぇ」
女は呆然とする私をベッドに押し倒し、そのまま跨って熱く搾り取るのだった。
西郷の女と呼ばれる立ちんぼが上野公園には存在する。見た目は三十五歳を少し過ぎたぐらいの美女で、いつも西郷隆盛像の近くにいることから、西郷の女と言われている。
それだけならば都内に数多いる売春婦と変わらないが、その女には変わったところがある。相手によって一晩の料金が変わるのだ。
女は客の顔を一目見て料金を決める。五万と言われる男もいれば一万と言われる男もいる。男二人が西郷の女の前に立ち、それぞれ値踏みされると面白いことになる。安い料金を言われた方は勝ち誇り、高い料金の男をせせら笑う。そして女は言う。
「さぁ、どうするの? どっちが私を抱くんだい?」
すると面白いもので、ほとんどの場合、高い料金設定をされた男の方が女を買う。それほどまでに俺と寝たくないのなら! とムキになり、大枚を叩いてホテルへと消えてゆく。
そんな女だから当然のごとく風俗掲示板にも専スレが立ち、今は西郷の女パート250だ。都内の立ちんぼの専スレの中では最も盛んに書き込みが行われ、俺は三万だった私は五千だったと盛り上がる。
ある日、その専スレに奇妙な書き込みがあった。自分は西郷の女に金を貰ったぞと。金を払っているお前達は何となんと魅力のない生き物なのだろう。全く下らない。今すぐ死にたまえと。
この書き込みには普段温厚な変態紳士たる私も怒りで震えた。かく言う私は、西郷の女から0円査定をもらっている男なのだ。もうずっと前からタダで致している。それなりのプライドがある。
私は怒りに任せて専スレに書き込んだ。ふざけるな。我こそは0円査定の男であるぞ。西郷の女からは最高の男だと言われている。そんな私でも0円だ。金を貰ったなどと嘘を吐くのではない。
すると、すぐさま反応があった。書き込みは事実だ! 自分はいつだって金を貰っているぞ。今日だって貰った。悔しいからといって、人を嘘吐き呼ばわりするものではない。これだから下等な男は救えないと。
宜しい! ならば直接会って二人まとめて値付けして貰おう。今すぐ上野公園に来たまえ!
望むところだ。というのは男の最後の書き込み。
上野公園交番前を通り階段を上がると西郷隆盛像が見えてくる。その傍らにはいつも通り、西郷の女がいる。まだ、客はついていないらしい。女は私を認めると渋い顔をしてぷいとそっぽを向いた。可愛いものだ。私は近くのベンチに腰を下ろして、例の男が現れるのを待った。
十分、三十分と待ち、私に恐れをなしたかとほくそ笑んでいた頃だ。齢十二、三に見える少年が西郷隆盛像にツカツカとやって来て、大きく息を吸い込んだ。
「我こそは西郷の女に金を貰う男だ! ゼロ円査定の男よ、出て来い!!」
それを聞いて一番最初に動いたのは西郷の女だった。
「隆史! なに馬鹿なことを言ってるの! お母さんの仕事の邪魔をするもんじゃないよ!!」
「馬鹿なものか! 俺は何一つ嘘を言っていないぞ! 今日だって夕食代で千円貰った!」
これは参った。これが反抗期というものか。いくら私でも、子を思う母親の前では無力。しかし、ここで出て行かなければ、先の啖呵が嘘になる。私は立ち上がり、大股で歩きながら声を上げた。
「待ちくたびれたぞ! 書き込みの男! 我こそはゼロ円査定にして、西郷の女から最高と評される男ぞ。ただ血続きに頼る童が偉そうに語るではない」
「ふん! こんなジジイがゼロ円とは笑わせる!」
「なんとでも言うがいい! 決めるのは、西郷の女だ!」
そう言って女を見つめると、頭を抱えている。
「母さん! 早く!!」
「うるさいねぇ! もう! この人はいつも通りゼロ円で、隆史は一千万円だ! 払えるのかい? 払えないならさっさと家に帰って宿題でもおし!」
ポロポロと泣き始めた少年は「警察に言ってやる!」と吐き捨てて、駆けていく。全く、ゼロ円ならば売春ではないというのに。
「今日はもう、店仕舞いだ。あんた、付き合ってもらうよ」
女は私の手を引いて、すぐ近くにあるいつものホテルへと入っていく。フロントも慣れたもので、何も言わずにスッと鍵を出した。
部屋に入るや否や女は私の服を剥ぎ取り、貪るように唇を奪った。そして背中に爪を立てながら言う。
「あんた、初めて会った自分の息子には、優しくするもんだよ」
「……」
「ふふふ。その顔、傑作だよ」
「……本当なのか?」
「どうだかねぇ」
女は呆然とする私をベッドに押し倒し、そのまま跨って熱く搾り取るのだった。
42この名無しがすごい! (ワッチョイ 2301-kxY/)
2022/05/08(日) 21:55:54.30ID:ZNozkfgk0 >>35おめでとうございます!
43ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE (ワッチョイ 262f-U1YL)
2022/05/08(日) 21:58:12.35ID:bCPlOvV50 この話は猫ゴホゴホを彷彿とさせる!
演奏がメインではないが人間に迫る!
その主役の一方が不在であっても読者に想像させる!
そのような書き方がされていた! 確かな技術を感じさせた!
一般の目もさりげなく取り入れて一レスに纏めた!
その手腕にワイは感心した!
第四位は前スレの>763である!
おめでとう!(`・ω・´)
演奏がメインではないが人間に迫る!
その主役の一方が不在であっても読者に想像させる!
そのような書き方がされていた! 確かな技術を感じさせた!
一般の目もさりげなく取り入れて一レスに纏めた!
その手腕にワイは感心した!
第四位は前スレの>763である!
おめでとう!(`・ω・´)
44S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 21:59:08.58ID:rNbjpmCi0 おめでとうございます!
45ヒロ ◆od7VcHd6ZGh4 (スププ Sd8a-KFee)
2022/05/08(日) 21:59:16.14ID:Vi+rS+vVd46この名無しがすごい! (ワッチョイ bb01-U1YL)
2022/05/08(日) 21:59:44.23ID:7oxuHhuh0 >>763
おめでとー!
おめでとー!
47ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE (ワッチョイ 262f-U1YL)
2022/05/08(日) 22:00:04.44ID:bCPlOvV50 上位三作品の前にトイレタイムを設ける!
わ、ワイが行きたいわけじゃないんだからね!川`・ω・)ホント、失礼しちゃうわ!
わ、ワイが行きたいわけじゃないんだからね!川`・ω・)ホント、失礼しちゃうわ!
48この名無しがすごい! (ササクッテロロ Sp33-b/TS)
2022/05/08(日) 22:00:15.74ID:qzHqgCzIp 0763 第五十八回ワイスレ杯参加作品 (ワッチョイ bf7d-N6wW) 2022/05/05 11:42:04
「あなた、そういう趣味があったわけ?」
パジャマに着替える私の傍で、妻がスーパーの惣菜を並べながらテーブルに置かれたパーティの招待状を汚いものを見るように言った。ドラアッグクイーンを派手なピンクの縁取りが飾っていた。
クイーンは高瀬だった。ショーパブで成功している話と、最近死んだことは聞いていた。
「食べたら智子に早く寝るように言ってちょうだい。部活の朝練があるのにあの子ほんとに寝起きが悪いんだから」
遅い夕食を並べ終わった妻は「変な道にハマんないでよ」と捨て台詞のように言って寝室に消えた。
◆
高校時代、高瀬と私は吹奏楽部だった。私はトロンボーンで彼はバリトンサックス。背が高くイケメンの高瀬にはファンが多かった。
文化祭にデュオでやろうぜと言ってきたのは高瀬だった。
「曲はMy Favorite Things。コルトレーンのやつはお前も聴いただろ。おれがアレンジするからさ」
「バリサクとボントロで? なんか変則だなあ」
「低音の魅力ってやつだ」と楽しそうに笑った。
高瀬の熱意に押されて、その夏は二人で練習ばかりしていた。その甲斐あって文化祭での演奏はかなりの成功だった。中学の頃から父親にジャズを仕込まれていた高瀬は曲芸のようなソロを吹いた。
お陰で学校ではモブのひとりに過ぎなかった私も、それなりに注目を浴びることになった。
■
パーティの会場は高瀬の店で、新宿二丁目の地下にあった。ポール・スミスのスーツで来たのだが、あまりの場違いな雰囲気に私は気圧されてしまった。
ミラーボールが煌めく店内は半裸に巨大な羽飾りやタンクトップやミニスカートの男たちでごった返していて、まるでお化けのいないハロウィンだった。
奥の方に祭壇が設えてあって、着飾った高瀬の大きな写真が見える。
そこまで行く踏ん切りがつかずにいると「ハジメくん?」と黒いスーツの華奢な男が私に声を掛けてきた。高瀬に似た整った顔立ちに、薄くひいたアイラインがよく似合っていた。
「主催のミチルです。喪主っていうべきかな。今日は自分たちなりの葬式なんです」そう言って柔らかく笑った。
「来てくれてありがとう。彼はあなたのことよく話したし、連絡したがってた。でもこんなふうだからノンケに迷惑かけちゃいけないって迷ってて、迷ってるうちに死んじゃった。あっという間だったんです。ガンだった」
「俺たち大学は関東と関西だから、高校を卒業してからはほとんど会うこともなかったな」
「あなたの話はよく話は聞かされてました。写真もたくさん持ってた。文化祭のも。あなたは初恋の人だって言ってた」
そう聞かされて納得がいった。あの時、高瀬の情熱の半分はおそらく私に向けられたものだったのだ。
「きみは高瀬の、なんというか、パートナーなの?」
「妹です」
えっ、と言って私はしばらく言葉に詰まった。
「てっきり男かと。そういえば」高瀬の家に行ったときに何度かジュースや麦茶を持ってきてくれた女の子を思い出した。まだ小学生くらいだったはずだ。
「兄妹揃ってLGBTなんです。おかしいでしょ」そう言って彼は、いや、彼女はあははと屈託なく笑った。
「兄はあなたのことが忘れられなかったみたいです。俺なんかよりずっと乙女でした、昔から」
そういえばクラスメイトや知らない生徒から告白されて困っているという相談を何度も受けた。私には羨ましい限りだったが、高瀬は男と女のあいだで本当に苦しんでいたのだ。
胸が締めつけられた。私にとって高瀬は音楽を分かち合う仲間でしかなかった。高瀬の気持ちを少しもわかってやれなかった自分がいまさらのように悔しかった。
「もう少ししたらショーが始まりますから楽しんでいってください」そう言い残して妹は男たちの中に紛れた。
ショーは派手なバカ騒ぎだった。私はジントニックを舐めながら、こんな喧騒のなかで高瀬は毎晩なにを考えていたのだろうと思った。
不意に曲が変わった。My Favorite Things。あの演奏だった。ライトが落ち、壁にスライドが映しだされる。高校時代の懐かしい高瀬がいた。
大学時代、サラリーマン時代と画像が変わっていったが、私のなかにはあの夏の、高瀬の横顔と頬を流れる汗が息苦しいほどに蘇っていた。
「あなた、そういう趣味があったわけ?」
パジャマに着替える私の傍で、妻がスーパーの惣菜を並べながらテーブルに置かれたパーティの招待状を汚いものを見るように言った。ドラアッグクイーンを派手なピンクの縁取りが飾っていた。
クイーンは高瀬だった。ショーパブで成功している話と、最近死んだことは聞いていた。
「食べたら智子に早く寝るように言ってちょうだい。部活の朝練があるのにあの子ほんとに寝起きが悪いんだから」
遅い夕食を並べ終わった妻は「変な道にハマんないでよ」と捨て台詞のように言って寝室に消えた。
◆
高校時代、高瀬と私は吹奏楽部だった。私はトロンボーンで彼はバリトンサックス。背が高くイケメンの高瀬にはファンが多かった。
文化祭にデュオでやろうぜと言ってきたのは高瀬だった。
「曲はMy Favorite Things。コルトレーンのやつはお前も聴いただろ。おれがアレンジするからさ」
「バリサクとボントロで? なんか変則だなあ」
「低音の魅力ってやつだ」と楽しそうに笑った。
高瀬の熱意に押されて、その夏は二人で練習ばかりしていた。その甲斐あって文化祭での演奏はかなりの成功だった。中学の頃から父親にジャズを仕込まれていた高瀬は曲芸のようなソロを吹いた。
お陰で学校ではモブのひとりに過ぎなかった私も、それなりに注目を浴びることになった。
■
パーティの会場は高瀬の店で、新宿二丁目の地下にあった。ポール・スミスのスーツで来たのだが、あまりの場違いな雰囲気に私は気圧されてしまった。
ミラーボールが煌めく店内は半裸に巨大な羽飾りやタンクトップやミニスカートの男たちでごった返していて、まるでお化けのいないハロウィンだった。
奥の方に祭壇が設えてあって、着飾った高瀬の大きな写真が見える。
そこまで行く踏ん切りがつかずにいると「ハジメくん?」と黒いスーツの華奢な男が私に声を掛けてきた。高瀬に似た整った顔立ちに、薄くひいたアイラインがよく似合っていた。
「主催のミチルです。喪主っていうべきかな。今日は自分たちなりの葬式なんです」そう言って柔らかく笑った。
「来てくれてありがとう。彼はあなたのことよく話したし、連絡したがってた。でもこんなふうだからノンケに迷惑かけちゃいけないって迷ってて、迷ってるうちに死んじゃった。あっという間だったんです。ガンだった」
「俺たち大学は関東と関西だから、高校を卒業してからはほとんど会うこともなかったな」
「あなたの話はよく話は聞かされてました。写真もたくさん持ってた。文化祭のも。あなたは初恋の人だって言ってた」
そう聞かされて納得がいった。あの時、高瀬の情熱の半分はおそらく私に向けられたものだったのだ。
「きみは高瀬の、なんというか、パートナーなの?」
「妹です」
えっ、と言って私はしばらく言葉に詰まった。
「てっきり男かと。そういえば」高瀬の家に行ったときに何度かジュースや麦茶を持ってきてくれた女の子を思い出した。まだ小学生くらいだったはずだ。
「兄妹揃ってLGBTなんです。おかしいでしょ」そう言って彼は、いや、彼女はあははと屈託なく笑った。
「兄はあなたのことが忘れられなかったみたいです。俺なんかよりずっと乙女でした、昔から」
そういえばクラスメイトや知らない生徒から告白されて困っているという相談を何度も受けた。私には羨ましい限りだったが、高瀬は男と女のあいだで本当に苦しんでいたのだ。
胸が締めつけられた。私にとって高瀬は音楽を分かち合う仲間でしかなかった。高瀬の気持ちを少しもわかってやれなかった自分がいまさらのように悔しかった。
「もう少ししたらショーが始まりますから楽しんでいってください」そう言い残して妹は男たちの中に紛れた。
ショーは派手なバカ騒ぎだった。私はジントニックを舐めながら、こんな喧騒のなかで高瀬は毎晩なにを考えていたのだろうと思った。
不意に曲が変わった。My Favorite Things。あの演奏だった。ライトが落ち、壁にスライドが映しだされる。高校時代の懐かしい高瀬がいた。
大学時代、サラリーマン時代と画像が変わっていったが、私のなかにはあの夏の、高瀬の横顔と頬を流れる汗が息苦しいほどに蘇っていた。
49S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 22:00:40.91ID:rNbjpmCi0 もう十時ですけど待ちます〜。
50この名無しがすごい! (ワッチョイ 2301-kxY/)
2022/05/08(日) 22:01:18.55ID:ZNozkfgk051この名無しがすごい! (ワッチョイ 2a7d-oYRD)
2022/05/08(日) 22:02:20.81ID:NcS7D5if0 四位か、残念
52ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE (ワッチョイ 262f-U1YL)
2022/05/08(日) 22:05:49.44ID:bCPlOvV50 ブリブリだぜ!(`・ω・´)いや、失敬!
53S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 22:07:04.78ID:rNbjpmCi0 次から上位三位。
楽しみです。
楽しみです。
54猫 ◆3xhHXNsvAA (ササクッテロロ Sp33-b/TS)
2022/05/08(日) 22:08:50.97ID:Zg9GokQ9p55ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE (ワッチョイ 262f-U1YL)
2022/05/08(日) 22:10:02.36ID:bCPlOvV50 ドルドルドルドルドルドドン!(恒例のドラムロール)
頂点に近い三位の発表に移る!
計算し尽くされた内容!
狂気的な笑いは演出で全てを掌で転がした!
思い通りの展開に持っていった手腕に唸らされる!
綺麗すぎて逆に人間臭い一面を見たいと思わせた!
第三位は前スレの>859である!
海外作品を思わせる、おめでとう!(`・ω・´)
頂点に近い三位の発表に移る!
計算し尽くされた内容!
狂気的な笑いは演出で全てを掌で転がした!
思い通りの展開に持っていった手腕に唸らされる!
綺麗すぎて逆に人間臭い一面を見たいと思わせた!
第三位は前スレの>859である!
海外作品を思わせる、おめでとう!(`・ω・´)
56この名無しがすごい! (ワッチョイ 2301-kxY/)
2022/05/08(日) 22:10:59.23ID:ZNozkfgk0 >>55
おめでとうございます!
おめでとうございます!
57S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 22:11:03.16ID:rNbjpmCi0 三位、おめでとうございます!
58ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE (ワッチョイ 262f-U1YL)
2022/05/08(日) 22:11:23.38ID:bCPlOvV50 >>54
なんだって!(・`ω・´;)
なんだって!(・`ω・´;)
59リーマン ◆KG2B2yEDg6 (ワッチョイ d35f-vjB4)
2022/05/08(日) 22:11:38.64ID:R+F+0OsV0 ありがとうございます!
3位の絵画を巡る騙し合いは、リーマンでした!
三連覇逃した!!
3位の絵画を巡る騙し合いは、リーマンでした!
三連覇逃した!!
60S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 22:12:25.41ID:rNbjpmCi0 リーマンさんでしたか、すごい!
61この名無しがすごい! (ササクッテロロ Sp33-b/TS)
2022/05/08(日) 22:12:37.58ID:Zg9GokQ9p 0859 第五十九回ワイスレ杯参加作品 (ワッチョイ d35f-hKum) 2022/05/07 23:48:05
「ワインを持ってきたよ、赤で良かったよね」
男が声を掛けるが、女は返事をすることなく部屋の壁――否、そこに掛けられた数点の絵画を凝視していた。
男はやれやれと肩を竦める。
「そんな絵の何がいいのやら」
女はようやく振り向く。
「そんな絵? とんでもない! これらは人類の宝よ。……ドガ、モネ、ルノワールに、ピカソまで。いずれも真作。惚れ惚れするわ」
うっとりした口調に、男は苦笑する。
「止めてくれよ、エリス。まるで死んだ父が戻って来たかのようだ」
「ジャンのお父さま――高名な美術品蒐集家のドミニク氏ね。残念だわ。ご存命なら、きっと話が合ったでしょうに」
ジャンは、グラス二つにワインを注ぎながら頷く。
「だろうね。きっと僕を置いてけぼりに、二人で盛り上がったろうさ。いや、三人かな? 母も父の遺したこれらの絵を大切にしていてね。手放すのを決して許して下さらない」
「賢明なお母さまに感謝ね。そのお陰で、これらの名画をじっくりと鑑賞できるのですもの」
「はいはい、どうせ僕は、芸術の何たるかを分からぬ詰まらない男ですとも」
ジャンは片方のグラスをエリスに手渡すと、ソファに腰掛ける。
「あら、そんな拗ねた言い方しないでよ」
エリスは、ジャンの隣に腰掛けた。
「確かに芸術談議ができないのは残念だけど……。それ以外では、あなたは素敵な男よ。ハンサムだし、仕事もできる。何より、彼女である私を大切にしてくれる。最高の彼氏よ」
「本当にそう思ってる?」
「勿論」
エリスは自分のグラスをサイドテーブルに置くと、潤んだ瞳でジャンの顔を見詰める。頬に手を添え、熱烈な口付けをした。
二度、三度角度を変え、唇を重ねること十秒余り。貪るような口付けを終えると、エリスはジャンの体にしなだれかかる。
ジャンは口紅の付いた口角を上げる。
「おいおい、ワインが零れてしまうよ」
「なら、早く飲んで頂戴。続きを楽しみましょう?」
「そうするとしよう」
ジャンはワインを一息に飲み干した。
ハッと、ジャンはソファの上で目覚める。そうして壁に視線をやった。――ない。彼の父が遺した絵が一枚もない。
それを確認したジャンは、部屋の中に視線を巡らせる。サイドテーブルの上に、一枚の書置きがあることに気付いた。
手に取ると、そこには『ジャン、あなたは絵画を見る目だけでなく、女を見る目もなかったようね』と記されていた。
ジャンはパチンと額に手を当てる。
「ハハ、ハハハハ、ハハハハハハ!」
壊れたように笑い続けた。
後日、ジャンの母のソフィアは怒り狂った。ジャンの事を『女の色香に騙された愚か者』と詰り、聞くに堪えない罵声を一時間に渡りジャンに聞かせた。
ジャンは悄然とした顔で聞き続けた。やがて気が済んだのか、はたまた怒り疲れたのか、ソフィアは足音荒く立ち去っていく。
その背中が見えなくなるのを待ってから、ジャンは部屋に備え付けられた衣装箪笥の前に立つ。引き出しを引き、服の下から預金通帳を取り出した。それを捲り、ほくそ笑む。
ジャンの父が遺した絵画に、ジャンは美術品保険をかけていた。彼のかねてからの望み通り、絵画を全て金に換えて見せた。
「ワインを持ってきたよ、赤で良かったよね」
男が声を掛けるが、女は返事をすることなく部屋の壁――否、そこに掛けられた数点の絵画を凝視していた。
男はやれやれと肩を竦める。
「そんな絵の何がいいのやら」
女はようやく振り向く。
「そんな絵? とんでもない! これらは人類の宝よ。……ドガ、モネ、ルノワールに、ピカソまで。いずれも真作。惚れ惚れするわ」
うっとりした口調に、男は苦笑する。
「止めてくれよ、エリス。まるで死んだ父が戻って来たかのようだ」
「ジャンのお父さま――高名な美術品蒐集家のドミニク氏ね。残念だわ。ご存命なら、きっと話が合ったでしょうに」
ジャンは、グラス二つにワインを注ぎながら頷く。
「だろうね。きっと僕を置いてけぼりに、二人で盛り上がったろうさ。いや、三人かな? 母も父の遺したこれらの絵を大切にしていてね。手放すのを決して許して下さらない」
「賢明なお母さまに感謝ね。そのお陰で、これらの名画をじっくりと鑑賞できるのですもの」
「はいはい、どうせ僕は、芸術の何たるかを分からぬ詰まらない男ですとも」
ジャンは片方のグラスをエリスに手渡すと、ソファに腰掛ける。
「あら、そんな拗ねた言い方しないでよ」
エリスは、ジャンの隣に腰掛けた。
「確かに芸術談議ができないのは残念だけど……。それ以外では、あなたは素敵な男よ。ハンサムだし、仕事もできる。何より、彼女である私を大切にしてくれる。最高の彼氏よ」
「本当にそう思ってる?」
「勿論」
エリスは自分のグラスをサイドテーブルに置くと、潤んだ瞳でジャンの顔を見詰める。頬に手を添え、熱烈な口付けをした。
二度、三度角度を変え、唇を重ねること十秒余り。貪るような口付けを終えると、エリスはジャンの体にしなだれかかる。
ジャンは口紅の付いた口角を上げる。
「おいおい、ワインが零れてしまうよ」
「なら、早く飲んで頂戴。続きを楽しみましょう?」
「そうするとしよう」
ジャンはワインを一息に飲み干した。
ハッと、ジャンはソファの上で目覚める。そうして壁に視線をやった。――ない。彼の父が遺した絵が一枚もない。
それを確認したジャンは、部屋の中に視線を巡らせる。サイドテーブルの上に、一枚の書置きがあることに気付いた。
手に取ると、そこには『ジャン、あなたは絵画を見る目だけでなく、女を見る目もなかったようね』と記されていた。
ジャンはパチンと額に手を当てる。
「ハハ、ハハハハ、ハハハハハハ!」
壊れたように笑い続けた。
後日、ジャンの母のソフィアは怒り狂った。ジャンの事を『女の色香に騙された愚か者』と詰り、聞くに堪えない罵声を一時間に渡りジャンに聞かせた。
ジャンは悄然とした顔で聞き続けた。やがて気が済んだのか、はたまた怒り疲れたのか、ソフィアは足音荒く立ち去っていく。
その背中が見えなくなるのを待ってから、ジャンは部屋に備え付けられた衣装箪笥の前に立つ。引き出しを引き、服の下から預金通帳を取り出した。それを捲り、ほくそ笑む。
ジャンの父が遺した絵画に、ジャンは美術品保険をかけていた。彼のかねてからの望み通り、絵画を全て金に換えて見せた。
62この名無しがすごい! (ワッチョイ bb01-U1YL)
2022/05/08(日) 22:13:16.61ID:7oxuHhuh063ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE (ワッチョイ 262f-U1YL)
2022/05/08(日) 22:15:43.85ID:bCPlOvV50 続いて発表!
これはウケた! 技巧もあるがとにかく面白く読めた!
推敲不足はあるが舞台と展開にはケチの付けようがない!
威厳と権威で出だしを引き締めて、まさかの展開に持ち込む!
天使のようでいて求愛を迫る姿は悪魔的であった!
第二位は前スレの>862である!
おめでとう!(`・ω・´)市販の書籍にありそう!
これはウケた! 技巧もあるがとにかく面白く読めた!
推敲不足はあるが舞台と展開にはケチの付けようがない!
威厳と権威で出だしを引き締めて、まさかの展開に持ち込む!
天使のようでいて求愛を迫る姿は悪魔的であった!
第二位は前スレの>862である!
おめでとう!(`・ω・´)市販の書籍にありそう!
64この名無しがすごい! (ササクッテロロ Sp33-b/TS)
2022/05/08(日) 22:16:21.55ID:Zg9GokQ9p >>59
リーマンショック!
リーマンショック!
65S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 22:16:42.54ID:rNbjpmCi0 おめでとうございます!
66この名無しがすごい! (ワッチョイ bb01-U1YL)
2022/05/08(日) 22:17:19.97ID:7oxuHhuh067この名無しがすごい! (ワッチョイ 2301-kxY/)
2022/05/08(日) 22:17:52.00ID:ZNozkfgk0 >>63おめでとうございます!
68S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 22:19:37.86ID:rNbjpmCi0 二位のお話はとても素晴らしいと思います。あっぱれ!
一位はどの作品でしょう?
一位はどの作品でしょう?
69この名無しがすごい! (ササクッテロロ Sp33-b/TS)
2022/05/08(日) 22:19:40.43ID:Zg9GokQ9p 0862 第五十九回ワイスレ杯参加作品 (ワッチョイ 7eb2-U1YL) 2022/05/07 23:54:57
「灼熱騎士団団長、グレン・バーナード、壇上へ!」
名前を呼ばれ、グレンは慌てて立ち上がった。 居眠りしかけていた意識を持ち直し、どうにか口元を引き締める。
やべ、何してたんだっけ……? ああ、うちの新人就任式か。
己の仕事を思い出し、壇上へと上がる。 装飾鎧を身に纏った若造どもを睥睨すると、さすがに目が覚めてきた。
ここは王国の祭礼場。 背後に目をやれば、国王とその取り巻きたちの期待するような視線が降り注ぐ。
……いよいよ、若造どもが正式に騎士となるわけだ。 目頭に熱を感じ、俺もそろそろ年かな、と内心で苦笑する。
「次、団長へ灼熱の宣誓。 ルナ・メローニ、壇上へ!」
進行役の指名に「はっ」と応じたのはハスキーな声だ。 野郎どもに埋もれて見えなかった小柄な体躯がグレンの前へと姿を現す。
今期の新人最優秀は、見目に麗しい少女なのである。
白磁の肌に端正な顔立ちは天使もかくやの美貌だが、その表情は今日も今日とて鉄面皮。 何を考えているか分からない、天才新人であった。
最敬礼ののち、彼女は射るような視線をグレンに向け、よく通る声を張った。
「グレン団長、結婚を前提にお付き合いしてくださいっ!」
……きっとまだ居眠りしてるんだな、俺。
現実逃避する程度には、場違いでベタな告白であった。
新米騎士たちも、状況が呑み込めずぽかんと口を開けている。
そんな中、ルナだけが仔猫のように小首をかしげ、再び口を開いた。
「復唱しますか?」
「せんでいいわ!」
どうやら現実であるらい。 グレンはクワッと怒声を発する。
「ルナ! 国王の前、式典の場だ! 私情を持ち込むなどもっての――」
「許可は得ております」
「ほかだれだよ許可したのおぉお!」
悲痛な叫び。 視線を感じて振り向けば……頭に王冠を載せたジジイが孫を見るような笑顔で手を振っていた。 平和だなこの国!
頭痛を覚えつつルナと再び対峙するグレン。
相変わらずの鉄面皮が、どこかわくわくしているようにも見えてきた。
「……ルナ、冷静になれ」
「自分は至極冷静であります」
「今でこそこんな地位だが、俺もともとは冒険者あがりの平民だ」
「親族の根回しは完了しております」
「だから貴族のお前とはえぇえ?」
さすがに頭を抱えるグレン。 外堀は埋まっているらしい。
はてさてどうしたものか……。
確かに四十代が見えてきた昨今、そろそろ腰を落ち着けようと思わなくもない。
が、グレンは所帯フリーな今の生活が気に入っている。 具体的にはまだ女遊びがしたいのだ!
「ルナ、確かにお前は美人だ」
「自負しております」
「だが所詮は二十近くも年下の小娘に過ぎん。 残念ながら守備範囲では――」
「団長、チェルシーちゃんは私より年下であります」
昨晩娼館で指名した名前を暴露されて鼻水を噴いた。
整列した騎士たちに動揺が走る。 何人か半笑いなのがひどくムカつく。
グレンは咳払いをひとつ置き、若造連中を黙らせた。
……まずい流れだ。 今日まで積み上げてきた団長としての威厳が崩壊寸前である。
グレンは死ぬ気で脳を働かせる。 だって女遊びがしたいから……これだ!
「なるほど、お前の気持ちはよくわかった。 だが悪いな、俺は女遊びが好きな最低野郎だ」
「矯正します」やだこわい。
「ふんっ、お前が鎮めてくれるとでも? 俺は絶倫だぞ。 あのチェルシーちゃんをして「死んじゃう」と言わしめた絶倫団長だ!」
「望むところであります」
「「「えっ?」」」
その場の全員が目を剥いた。
この娘、化け物か……!
「ぐぬぅ、ていうかお前みたいな美少女が俺みたいなおっさん好きになるわけがねえ! お前は、俺の何を知ってるんだ!」
「
「うわ恥ずかしいやめてやめてやめて」
やめてくれなかった。
「確かに年の差がありすぎるし、私だってただの憧れだと思っていました。 『おやじ趣味』ってバカにされもしました。 でもダメなんです、好きなんです、止められない、あなたじゃなきゃときめかない! 十年積もらせ、こじらせた恋心、ナメないでください!!」
「わかったわかった俺の負けぇ!!」
瞬間、団員たちの祝福の咆哮が音の塊となって祭礼場を震わせた。
――初めて目にした新米騎士の無邪気な笑顔は、見惚れるほどに美しかった。
「灼熱騎士団団長、グレン・バーナード、壇上へ!」
名前を呼ばれ、グレンは慌てて立ち上がった。 居眠りしかけていた意識を持ち直し、どうにか口元を引き締める。
やべ、何してたんだっけ……? ああ、うちの新人就任式か。
己の仕事を思い出し、壇上へと上がる。 装飾鎧を身に纏った若造どもを睥睨すると、さすがに目が覚めてきた。
ここは王国の祭礼場。 背後に目をやれば、国王とその取り巻きたちの期待するような視線が降り注ぐ。
……いよいよ、若造どもが正式に騎士となるわけだ。 目頭に熱を感じ、俺もそろそろ年かな、と内心で苦笑する。
「次、団長へ灼熱の宣誓。 ルナ・メローニ、壇上へ!」
進行役の指名に「はっ」と応じたのはハスキーな声だ。 野郎どもに埋もれて見えなかった小柄な体躯がグレンの前へと姿を現す。
今期の新人最優秀は、見目に麗しい少女なのである。
白磁の肌に端正な顔立ちは天使もかくやの美貌だが、その表情は今日も今日とて鉄面皮。 何を考えているか分からない、天才新人であった。
最敬礼ののち、彼女は射るような視線をグレンに向け、よく通る声を張った。
「グレン団長、結婚を前提にお付き合いしてくださいっ!」
……きっとまだ居眠りしてるんだな、俺。
現実逃避する程度には、場違いでベタな告白であった。
新米騎士たちも、状況が呑み込めずぽかんと口を開けている。
そんな中、ルナだけが仔猫のように小首をかしげ、再び口を開いた。
「復唱しますか?」
「せんでいいわ!」
どうやら現実であるらい。 グレンはクワッと怒声を発する。
「ルナ! 国王の前、式典の場だ! 私情を持ち込むなどもっての――」
「許可は得ております」
「ほかだれだよ許可したのおぉお!」
悲痛な叫び。 視線を感じて振り向けば……頭に王冠を載せたジジイが孫を見るような笑顔で手を振っていた。 平和だなこの国!
頭痛を覚えつつルナと再び対峙するグレン。
相変わらずの鉄面皮が、どこかわくわくしているようにも見えてきた。
「……ルナ、冷静になれ」
「自分は至極冷静であります」
「今でこそこんな地位だが、俺もともとは冒険者あがりの平民だ」
「親族の根回しは完了しております」
「だから貴族のお前とはえぇえ?」
さすがに頭を抱えるグレン。 外堀は埋まっているらしい。
はてさてどうしたものか……。
確かに四十代が見えてきた昨今、そろそろ腰を落ち着けようと思わなくもない。
が、グレンは所帯フリーな今の生活が気に入っている。 具体的にはまだ女遊びがしたいのだ!
「ルナ、確かにお前は美人だ」
「自負しております」
「だが所詮は二十近くも年下の小娘に過ぎん。 残念ながら守備範囲では――」
「団長、チェルシーちゃんは私より年下であります」
昨晩娼館で指名した名前を暴露されて鼻水を噴いた。
整列した騎士たちに動揺が走る。 何人か半笑いなのがひどくムカつく。
グレンは咳払いをひとつ置き、若造連中を黙らせた。
……まずい流れだ。 今日まで積み上げてきた団長としての威厳が崩壊寸前である。
グレンは死ぬ気で脳を働かせる。 だって女遊びがしたいから……これだ!
「なるほど、お前の気持ちはよくわかった。 だが悪いな、俺は女遊びが好きな最低野郎だ」
「矯正します」やだこわい。
「ふんっ、お前が鎮めてくれるとでも? 俺は絶倫だぞ。 あのチェルシーちゃんをして「死んじゃう」と言わしめた絶倫団長だ!」
「望むところであります」
「「「えっ?」」」
その場の全員が目を剥いた。
この娘、化け物か……!
「ぐぬぅ、ていうかお前みたいな美少女が俺みたいなおっさん好きになるわけがねえ! お前は、俺の何を知ってるんだ!」
「
「うわ恥ずかしいやめてやめてやめて」
やめてくれなかった。
「確かに年の差がありすぎるし、私だってただの憧れだと思っていました。 『おやじ趣味』ってバカにされもしました。 でもダメなんです、好きなんです、止められない、あなたじゃなきゃときめかない! 十年積もらせ、こじらせた恋心、ナメないでください!!」
「わかったわかった俺の負けぇ!!」
瞬間、団員たちの祝福の咆哮が音の塊となって祭礼場を震わせた。
――初めて目にした新米騎士の無邪気な笑顔は、見惚れるほどに美しかった。
70この名無しがすごい! (ササクッテロロ Sp33-b/TS)
2022/05/08(日) 22:19:58.18ID:Zg9GokQ9p 0862 第五十九回ワイスレ杯参加作品 (ワッチョイ 7eb2-U1YL) 2022/05/07 23:54:57
「灼熱騎士団団長、グレン・バーナード、壇上へ!」
名前を呼ばれ、グレンは慌てて立ち上がった。 居眠りしかけていた意識を持ち直し、どうにか口元を引き締める。
やべ、何してたんだっけ……? ああ、うちの新人就任式か。
己の仕事を思い出し、壇上へと上がる。 装飾鎧を身に纏った若造どもを睥睨すると、さすがに目が覚めてきた。
ここは王国の祭礼場。 背後に目をやれば、国王とその取り巻きたちの期待するような視線が降り注ぐ。
……いよいよ、若造どもが正式に騎士となるわけだ。 目頭に熱を感じ、俺もそろそろ年かな、と内心で苦笑する。
「次、団長へ灼熱の宣誓。 ルナ・メローニ、壇上へ!」
進行役の指名に「はっ」と応じたのはハスキーな声だ。 野郎どもに埋もれて見えなかった小柄な体躯がグレンの前へと姿を現す。
今期の新人最優秀は、見目に麗しい少女なのである。
白磁の肌に端正な顔立ちは天使もかくやの美貌だが、その表情は今日も今日とて鉄面皮。 何を考えているか分からない、天才新人であった。
最敬礼ののち、彼女は射るような視線をグレンに向け、よく通る声を張った。
「グレン団長、結婚を前提にお付き合いしてくださいっ!」
……きっとまだ居眠りしてるんだな、俺。
現実逃避する程度には、場違いでベタな告白であった。
新米騎士たちも、状況が呑み込めずぽかんと口を開けている。
そんな中、ルナだけが仔猫のように小首をかしげ、再び口を開いた。
「復唱しますか?」
「せんでいいわ!」
どうやら現実であるらい。 グレンはクワッと怒声を発する。
「ルナ! 国王の前、式典の場だ! 私情を持ち込むなどもっての――」
「許可は得ております」
「ほかだれだよ許可したのおぉお!」
悲痛な叫び。 視線を感じて振り向けば……頭に王冠を載せたジジイが孫を見るような笑顔で手を振っていた。 平和だなこの国!
頭痛を覚えつつルナと再び対峙するグレン。
相変わらずの鉄面皮が、どこかわくわくしているようにも見えてきた。
「……ルナ、冷静になれ」
「自分は至極冷静であります」
「今でこそこんな地位だが、俺もともとは冒険者あがりの平民だ」
「親族の根回しは完了しております」
「だから貴族のお前とはえぇえ?」
さすがに頭を抱えるグレン。 外堀は埋まっているらしい。
はてさてどうしたものか……。
確かに四十代が見えてきた昨今、そろそろ腰を落ち着けようと思わなくもない。
が、グレンは所帯フリーな今の生活が気に入っている。 具体的にはまだ女遊びがしたいのだ!
「ルナ、確かにお前は美人だ」
「自負しております」
「だが所詮は二十近くも年下の小娘に過ぎん。 残念ながら守備範囲では――」
「団長、チェルシーちゃんは私より年下であります」
昨晩娼館で指名した名前を暴露されて鼻水を噴いた。
整列した騎士たちに動揺が走る。 何人か半笑いなのがひどくムカつく。
グレンは咳払いをひとつ置き、若造連中を黙らせた。
……まずい流れだ。 今日まで積み上げてきた団長としての威厳が崩壊寸前である。
グレンは死ぬ気で脳を働かせる。 だって女遊びがしたいから……これだ!
「なるほど、お前の気持ちはよくわかった。 だが悪いな、俺は女遊びが好きな最低野郎だ」
「矯正します」やだこわい。
「ふんっ、お前が鎮めてくれるとでも? 俺は絶倫だぞ。 あのチェルシーちゃんをして「死んじゃう」と言わしめた絶倫団長だ!」
「望むところであります」
「「「えっ?」」」
その場の全員が目を剥いた。
この娘、化け物か……!
「ぐぬぅ、ていうかお前みたいな美少女が俺みたいなおっさん好きになるわけがねえ! お前は、俺の何を知ってるんだ!」
「
「うわ恥ずかしいやめてやめてやめて」
やめてくれなかった。
「確かに年の差がありすぎるし、私だってただの憧れだと思っていました。 『おやじ趣味』ってバカにされもしました。 でもダメなんです、好きなんです、止められない、あなたじゃなきゃときめかない! 十年積もらせ、こじらせた恋心、ナメないでください!!」
「わかったわかった俺の負けぇ!!」
瞬間、団員たちの祝福の咆哮が音の塊となって祭礼場を震わせた。
――初めて目にした新米騎士の無邪気な笑顔は、見惚れるほどに美しかった。
「灼熱騎士団団長、グレン・バーナード、壇上へ!」
名前を呼ばれ、グレンは慌てて立ち上がった。 居眠りしかけていた意識を持ち直し、どうにか口元を引き締める。
やべ、何してたんだっけ……? ああ、うちの新人就任式か。
己の仕事を思い出し、壇上へと上がる。 装飾鎧を身に纏った若造どもを睥睨すると、さすがに目が覚めてきた。
ここは王国の祭礼場。 背後に目をやれば、国王とその取り巻きたちの期待するような視線が降り注ぐ。
……いよいよ、若造どもが正式に騎士となるわけだ。 目頭に熱を感じ、俺もそろそろ年かな、と内心で苦笑する。
「次、団長へ灼熱の宣誓。 ルナ・メローニ、壇上へ!」
進行役の指名に「はっ」と応じたのはハスキーな声だ。 野郎どもに埋もれて見えなかった小柄な体躯がグレンの前へと姿を現す。
今期の新人最優秀は、見目に麗しい少女なのである。
白磁の肌に端正な顔立ちは天使もかくやの美貌だが、その表情は今日も今日とて鉄面皮。 何を考えているか分からない、天才新人であった。
最敬礼ののち、彼女は射るような視線をグレンに向け、よく通る声を張った。
「グレン団長、結婚を前提にお付き合いしてくださいっ!」
……きっとまだ居眠りしてるんだな、俺。
現実逃避する程度には、場違いでベタな告白であった。
新米騎士たちも、状況が呑み込めずぽかんと口を開けている。
そんな中、ルナだけが仔猫のように小首をかしげ、再び口を開いた。
「復唱しますか?」
「せんでいいわ!」
どうやら現実であるらい。 グレンはクワッと怒声を発する。
「ルナ! 国王の前、式典の場だ! 私情を持ち込むなどもっての――」
「許可は得ております」
「ほかだれだよ許可したのおぉお!」
悲痛な叫び。 視線を感じて振り向けば……頭に王冠を載せたジジイが孫を見るような笑顔で手を振っていた。 平和だなこの国!
頭痛を覚えつつルナと再び対峙するグレン。
相変わらずの鉄面皮が、どこかわくわくしているようにも見えてきた。
「……ルナ、冷静になれ」
「自分は至極冷静であります」
「今でこそこんな地位だが、俺もともとは冒険者あがりの平民だ」
「親族の根回しは完了しております」
「だから貴族のお前とはえぇえ?」
さすがに頭を抱えるグレン。 外堀は埋まっているらしい。
はてさてどうしたものか……。
確かに四十代が見えてきた昨今、そろそろ腰を落ち着けようと思わなくもない。
が、グレンは所帯フリーな今の生活が気に入っている。 具体的にはまだ女遊びがしたいのだ!
「ルナ、確かにお前は美人だ」
「自負しております」
「だが所詮は二十近くも年下の小娘に過ぎん。 残念ながら守備範囲では――」
「団長、チェルシーちゃんは私より年下であります」
昨晩娼館で指名した名前を暴露されて鼻水を噴いた。
整列した騎士たちに動揺が走る。 何人か半笑いなのがひどくムカつく。
グレンは咳払いをひとつ置き、若造連中を黙らせた。
……まずい流れだ。 今日まで積み上げてきた団長としての威厳が崩壊寸前である。
グレンは死ぬ気で脳を働かせる。 だって女遊びがしたいから……これだ!
「なるほど、お前の気持ちはよくわかった。 だが悪いな、俺は女遊びが好きな最低野郎だ」
「矯正します」やだこわい。
「ふんっ、お前が鎮めてくれるとでも? 俺は絶倫だぞ。 あのチェルシーちゃんをして「死んじゃう」と言わしめた絶倫団長だ!」
「望むところであります」
「「「えっ?」」」
その場の全員が目を剥いた。
この娘、化け物か……!
「ぐぬぅ、ていうかお前みたいな美少女が俺みたいなおっさん好きになるわけがねえ! お前は、俺の何を知ってるんだ!」
「
「うわ恥ずかしいやめてやめてやめて」
やめてくれなかった。
「確かに年の差がありすぎるし、私だってただの憧れだと思っていました。 『おやじ趣味』ってバカにされもしました。 でもダメなんです、好きなんです、止められない、あなたじゃなきゃときめかない! 十年積もらせ、こじらせた恋心、ナメないでください!!」
「わかったわかった俺の負けぇ!!」
瞬間、団員たちの祝福の咆哮が音の塊となって祭礼場を震わせた。
――初めて目にした新米騎士の無邪気な笑顔は、見惚れるほどに美しかった。
71この名無しがすごい! (ワッチョイ 7eb2-U1YL)
2022/05/08(日) 22:20:19.32ID:Yjg1PgBH072ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE (ワッチョイ 262f-U1YL)
2022/05/08(日) 22:21:20.54ID:bCPlOvV50 さて、大トリである!
第五十九回ワイスレ杯の頂点に立った作品の発表!
ワイを熟知していたのか! この題材を選んだところから抜け目がない!
しかも下調べは十分! 焼き肉店を選んだ点も高評価!
色々な心を用いて余すところなく一レスで表現した!
追いすがる二位と三位を振り切った! 全てにおいて見事である!
今回のワイスレ杯の頂点に立った作品は前スレの>802である!
ワイの家の事情を知ってか知らずかとにかく見事、最大級のおめでとう!(`・ω・´)
第五十九回ワイスレ杯の頂点に立った作品の発表!
ワイを熟知していたのか! この題材を選んだところから抜け目がない!
しかも下調べは十分! 焼き肉店を選んだ点も高評価!
色々な心を用いて余すところなく一レスで表現した!
追いすがる二位と三位を振り切った! 全てにおいて見事である!
今回のワイスレ杯の頂点に立った作品は前スレの>802である!
ワイの家の事情を知ってか知らずかとにかく見事、最大級のおめでとう!(`・ω・´)
73R ◆QpRTguxn5c (ワッチョイ dabd-ojei)
2022/05/08(日) 22:23:00.58ID:fI/Tp0cR0 え?
間違って無いですか?
え? 夢? これは夢?
望外過ぎる。
ありがとうございます!
間違って無いですか?
え? 夢? これは夢?
望外過ぎる。
ありがとうございます!
74S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 22:23:33.69ID:rNbjpmCi0 Rさん!
おめでとうございます!!!
おめでとうございます!!!
75S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 22:23:59.17ID:rNbjpmCi0 夢じゃないですよ多分!
76R ◆QpRTguxn5c (ワッチョイ dabd-ojei)
2022/05/08(日) 22:24:01.66ID:fI/Tp0cR077この名無しがすごい! (ワッチョイ d35f-U1YL)
2022/05/08(日) 22:24:04.82ID:KNdaMRM80 おめでとうございます!
78ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE (ワッチョイ 262f-U1YL)
2022/05/08(日) 22:24:21.89ID:bCPlOvV50 これにて第五十九回ワイスレ杯を終了する!
あとは参加者同士で語らって貰いたい!
さすがに疲れた!(`・ω・´)ノシ 上位入賞者、参加してくれた作者達に幸あれ!
あとは参加者同士で語らって貰いたい!
さすがに疲れた!(`・ω・´)ノシ 上位入賞者、参加してくれた作者達に幸あれ!
79S ◆GmgU93SCyE (ワッチョイ 7302-L0Zv)
2022/05/08(日) 22:24:56.18ID:rNbjpmCi0 ワイさん乙です!
楽しかった! 眠いので私はこれで。
おやすみなさい!
楽しかった! 眠いので私はこれで。
おやすみなさい!
80バステト女神 (ワッチョイ dabd-U+IH)
2022/05/08(日) 22:25:22.21ID:i99+gX1i0 ワイさんお疲れさまでございました!
81この名無しがすごい! (ワッチョイ 2301-kxY/)
2022/05/08(日) 22:25:32.54ID:ZNozkfgk0■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
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