もし1942年に米国がドイツと交戦状態に入っていなかったらという主題で検討を始めるなら、
欧州での戦争はおそらく手詰まりになる、という結論に向かうことになる。米国の直接介入が
なければ、たとえ「ウルトラ」暗号の解読が進んだとしても、英国が大西洋の戦いでドイツに
勝つのは可能性の段階にとどまるだろう。しかも勝利の時期は史実よりかなり遅くなり、
範囲も限られたものとなる。

英国にとって中東と地中海での戦争は史実よりも全体としてはるかに苦しいものとなるだろう。
当然、「トーチ作戦」も北アフリカの仏領とイタリア領の制圧もありえない。むしろヒトラーが
ヴィシー・フランスとスペインに対して、もっと枢軸側と緊密に協力するよう強要する可能性の
方がはるかに大きい。1943年にイタリアが戦列から脱落することはほとんどありえないだろう。
最悪のシナリオを考えると、地中海は枢軸側があふれる湖のようになっていたかもしれない。
ソ連側は早期に「第二戦線」が形成されることにはほとんど期待が持てなくなるだろう。
西方でドイツの脅威となりうる唯一の戦力である英国軍はどんどん弱体化していくからである。
米国の欧州大戦への直接介入なしには、戦争の最後の二年間に、ソ連をあれほど強化する
のに役立った物資の洪水的な流入は想像できない。最終的な軍事的勝利の見込みが
ほとんどなくなった段階でスターリンはドイツへの和平提案を不承不承ながらも真剣に
提議したのではないか。