>>133
河原に打ち捨てられ朽ち果てた自転車に、もう一人の自分を見出した男が、エクスタシーの再体験を得るべく血眼になって這いずる話がいいな
男は、必死に取り戻そうとしているんだ
遠い昔に失った、大切な何かを
成長と共に忘れてしまった、大切な何かを
その欠けらがどこかに落ちていないかと、気付けば男は足元ばかりを探していた
男は自転車だった
ばらばらに壊され、がらがらと崩れ、どろどろに溶けて、今や錆と黴と苔の温床になってしまった自分。
粉吹くペダルは肉。歪んだチェーンは骨。腐食したサドルは血
自転車は男だった
耳を澄ますと胸に響くのは、今にも消え入りそうな、静かな叫び
すでに自転車たるを辞めてしまったこの金属の塊は、確かに慟哭しているのだ
すっかり色褪せた金属のボディにこびり付いた赤錆は、お前の鏡写しなのだと
液状化し、べとべとに融け落ちたゴムパッキンは、お前の影なのだと
無くしたものは、掴みとらねばならない
失ったものは、奪い戻さねばならない
男はゆっくり頷くと、そろそろとズボンを脱ぎ捨てた
自分自身と一つになるために…