>>416
サークルならまだいいが陰湿なイジメがすごいんだよ
http://blog.livedoor.jp/marushio_/archives/1045739710.html

河口俊彦『一局の将棋 一回の人生』(新潮社、1990年)より
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その怪事件は一九七二年二月十八日に起こった。

B級1組順位戦「H八段 vs 佐藤大五郎七段」の一戦。
H八段が7五にある自分(先手)の歩で、7四にある相手(後手)の歩を取るという手なのだが、
7四の歩を駒台に載せてから自分の歩を空打ちして、7四ではなく7五地点に置いてしまったのである。
現代の常識では手が離れた瞬間に「不可能着手」による反則負けだ。
「おかしいよ、これは反則じゃないの」という佐藤の指摘に、H八段も自分の失敗に気付き、感想戦が始まった。

ところがそこへ別の棋士(S八段)が飛び込んできてHの耳元で何事かをささやく。
すると空気が一変、Hも反則などしていないと前言を撤回してしまう。
さらに別の長老棋士も加わっててんやわんやの大騒動となり、ついには、
「大五郎! 君はそんなことまでして勝ちたいのか」
こんな暴言まで飛び出す始末。
誰も佐藤大五郎の側に付かない。

それには理由があった。
当時の佐藤は結構活躍しており、羽振りも良かった。
その豪奢ぶりを見せびらかして悦に入るということもあったらしく、一部の棋士からは毛嫌いされていたのである。
このとき隣の対局の記録を取っていたのが桐谷広人だったが、理不尽な佐藤攻撃の一部始終を見ていたものの口は挟めない。
桐谷自身も佐藤の普段の行動を快く思っていなかったから余計に口出しできなかった。
(後に「あれは酷かった」と感想を漏らしたそうだが……)

結局H八段の反則は無かったということにさせられ、先手の▲7四歩を正式着手として将棋は指し継がれる。
こうなると道理も何もあったものではない。
彼は結局、「反則をでっち上げた不届き者」にされてしまったのである。
B1を五戦全勝で突っ走っていた矢先の出来事だった。