「藤井さんの将棋は、まったく好きではありませんね」
厳しい言葉が、若手トップ棋士である菅井竜也王位(26)の口から出た。棋界随一の勉強家といわれ、2017年、
初のタイトル挑戦で羽生善治から王位を奪った。藤井が最年少でのタイトル獲得を目指すうえで、大きく立ちはだかるのがこの男だ。
 多くの棋士が、コンピュータが評価する手を追求するのに対して、あえて人間くさい手にこだわりを持つ。
「藤井さんの序盤の一手は、どこまで自分の力で考えたものといえるのか。私も含めて、
若手はコンピュータを研究に使わざるをえない世代です。
でも多くの棋士はコンピュータに言われたとおりにやっているだけ。それだと個性がなくなり、
ファンから飽きられてしまう。羽生世代は、一手への理解の深みが違う」
菅井は30年から50年たっても鑑賞される棋譜というものは、コンピュータが示した手ではなく、
人間が編み出した将棋だという。さらにーー。
「私は連勝記録や勝率を評価しません。それよりもタイトル獲得や棋戦優勝のほうが価値がある。
昨年の藤井さんは、朝日杯の優勝がなかったら、自分でも納得いかなかったんじゃないかな」
藤井の読みの深さ、速さは多くの棋士を恐れさせている。だが、と菅井は続ける。
「詰将棋の計算力は、彼のほうが私の10倍は速いでしょう。でも、実戦ははるかに複雑で、直感が求められる。
どこまで読んでいるかなんて、数値で証明できない。証明できないものを恐れる必要はない」
これらの言葉を聞くと、藤井に対する評価が低いと感じるが、本心は違うようだ。
己れの将棋をより高めてくれる相手を求めているように感じられた。次の藤井戦について聞くと、こう答えた。
「きつい相手になるでしょう。いい勝負ができるという意味でね」