指摘(>>627)があった升田の「逆転負け」の棋譜について上から順番に1局ずつ棋譜を「正しく」観賞する視点で解説していこう

1963-06-06 名人戦
>115手目▲3四銀は△同玉と取って後手勝勢だったが本譜は▲5四玉としたため頓死

解説
中盤(といってもすでに84手目)まで互角の名局
ここまで、大山は持ち時間10時間の8時間以上、升田は9時間以上使っていた
ここで▲54歩としたのが悪手で升田の優勢となったが、大山は決め手を与えず差は広がらない
持ち時間が削られていながら互いに秘術を尽くした攻防は盤面に並べて味わってほしい
そして迎えたのが114手目の局面だった
評価値は-900ぐらいで後手升田に傾いているが、棋士の感覚ではどちらも確信が持てる状態ではなかったろう
ここで、大山は34にタダ捨ての銀を打った
考慮した時間は9分、升田の残り時間は17分ですでに時刻は22時を経過していた
根を詰めて2日間考え抜いて相当疲労がたまっていたに違いない
タダの銀を取るのはいわゆる毒まんじゅうで危険という予知が働くのは人間の心理というもの
銀を取っても詰まされることはないとしても、大山玉にも詰めろがかからないとしたら読み切るのは困難だ
取る手を含めて有力な手は4手でそのうち2手は詰んでしまう
以前にも解説したが短時間で王手への最善手を見つけるのはプロでも難しい
朝日杯の決勝でも藤井二冠が王手への対処を間違える場面があった
升田は残り10分を残して54玉と上部への脱出を図ったが大山はすかさず▲43角とした
これが13手の詰になっていた
升田は1分考えて投了
よくある頓死だが、大山の▲34銀はいわゆる「羽生マジック」と同じで勝因といってよいだろう