羽生の棋譜で鑑賞しがいがある棋譜の一つに千日手になった王座戦第5局がある(2012-10-03 先手渡辺竜王)
次の局面で羽生の放った△66銀はあまりにも有名だ
この手は後手玉の詰み手順にある▲66桂を消すのが狙い(▲同歩なら後手玉の詰めろが消える)で、この手で千日手に持ち込むことができた
惜しむらくは一手を稼ぐ手筋の△71金捨てでも千日手に持ち込むことができた点だ
https://i.imgur.com/hfH30rD.png

ここまでは普通に理解できるところだが、ソフトに解析させると実は渡辺に勝ちがあったことがわかる
もちろん、棋譜にケチをつけるつもりはさらさらない
ソフトで解析することで将棋の奥の深さの一端を掴めるから将棋もソフトも素晴らしいのだ
ポイントになる局面は△66銀の数手前、116手目の局面にある
https://i.imgur.com/5Xy9wCB.png

渡辺はここで▲88金打はとしているがこの先は千日手だった
ところが、ここで▲88飛なら渡辺の勝勢だったのである
その違いは以下△92金▲76銀△同歩▲79金△77歩成▲71角と進むと見えてくる
ここから、△82銀▲83金△同金▲同銀成△同玉▲82桂成△74玉となる
変化A図
https://i.imgur.com/IlzpUXo.png

この局面は先手玉に詰めがないので一手の余裕があるのが大きく先手勝勢である
ところが88の駒が飛車でなく金だったら△85桂打以下先手玉は詰まされてしまうのだ
変化B図
https://i.imgur.com/wUFHQVM.png

つまり、この変化(▲88金打の場合は▲83金の替わりに▲83飛とすればよいだけで後手の持駒が金2枚か飛車金かの違いだけ)は先手に一手の余裕がなく先手負けである
88飛の強防を逃したばかりに先手は千日手もやむなしになったのだ

棋譜を解析するとこうした幻の一手に見所がある場合が多い
この棋譜の幻の88飛とか、竜王戦第3局で羽生が指せなかった▲94角とか、こうした幻の手を当たり前のように指せる棋士が現れたときこそ絶賛に値する棋士ということになるだろう