>>393

 ―挑戦者決定戦の相手は日本将棋連盟会長の佐藤康光九段(51)でした
 「定跡があるようでない方なので、対策がしづらかった。佐藤さんの戦法は破天荒なようでも、綿密な考えに基づいている。その辺を丁寧に掘り返し、対局に臨みました」
 ―佐藤九段の先手矢倉に、近年よく指される「雁木がんぎ囲い」で対抗しました
 「事前に想定していない展開でした。(駒組みの段階で)5筋の位を取った手は、AIがなかったら思い付きもしなかった手です。昔ならもう少し待ったんじゃないか。今は行けるときは行くんだという発想になっている。後手番としては満足という進行でしたが、夕食休憩の時点ではむしろ悪いと思っていた。佐藤さんとやると、後半に攻めまくられる形になる。ジャブは放たないんです。ハードパンチしかこない。休憩中は横になりながら、そういうパターンになってしまったと思っていました」
 ―そこから角打ちの勝負手で流れを引き戻した
 「わけが分からず、読み切れないまま打ちました。あそこで佐藤さんが角を取らず、玉を逃げていればこちらが悪かったはず。取ってくれた瞬間、ほっとした記憶がある。最後は相手玉に詰みもあったようですが、こちらは自玉が詰まないかを必死に確認していました」

―AIの話が出ましたが、AI研究は将棋にどういう影響を与えましたか
 「昔は『これにていい勝負』という結論で終わることがよくありましたが、今はそれでは甘い。その先はどうなの、というところまで研究しないと。挽回のきかない優劣にまで研究が直結するようになった。ぶつかった段階で準備したものの成否が出て、ミスがなければそのまま一方的に終わってしまう。力で挽回できるという時代は終わったと言える。それだけ事前準備の持つ意味が大きくなっています」
 ―挑戦決定直後の記者会見では「研究時間を増やした」との話でした。2年前の王位挑戦時にも同じ言葉があったが、そこからさらに増やしたということですか
 「そうです。もう、ほかにやることがあまりない。趣味もなくなり、飲みに出掛けることも減った。空き時間があればパソコンに向かっています。記憶力も悪くなってるから、繰り返しやらないといけない」