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―対人での研究会とパソコンでの研究の比率は
「パソコンを見ていろいろ考えている時間が一番長く、研究会で人を相手に試し、そこで考えたことをまた検証し直す、という感じです。ただ、以前のように感覚でこれをやってみたい、というのではダメ。こういう理由で試してみたいというところまで突き詰めないと、時間の無駄になる。そういう手間を惜しんではいけない。あと大事なのは記憶力ですね」
―独りでパソコンと向き合うのは、つらい作業にも思えますが
「AIは最善手を教えてくれるけど、なぜその手がいい手かは教えてくれない。結論を自分で導き出さなければならず、そこはつらいところ。ただ、やってて良かったと思う時はある。『あ、こういうことか』と、今まで分かっていなかった理由を発見した瞬間というのは面白いし、やりがいも感じます」
―研究用のマシンやソフトにこだわりは
「そこは何でもいいと思ってますが、正月にパソコンは買い替えました。藤井さんが使っていたCPU(中央演算処理装置、AMD社のライゼン・スレッドリッパー)を搭載した高級機種。妻に『何が変わったの?』と聞かれたけど、私も分からない。読んでいる手の表示数は増えたけど、『こんなにするの?』というのを買ったんだから、そりゃそうでしょと。でも研究に向かう気持ちは保証されました。元を取らないと(笑)」

―それだけ研究時間を増やし、効果を実感しますか
「いや、現状維持が精いっぱいです。今回の挑戦だって名誉なことではあるが、力が付いたというより、たまたま星が偏っただけ。ツイていたということだと思っています」

―最後に、今回の挑戦について。長年の目標だったタイトルを一昨年獲得し、普通なら満足し、気が抜けてもおかしくない。そこでさらにアクセルを踏み込んでいけた要因は
「現状維持の延長ですよ。落ちないように、といろんなことをやっている中で、一つだけいいことがあった。実力の割にそれが目立っているという感じです」
―とはいえ、その年齢で趣味の時間もなく将棋に向き合い続けるのは、並大抵の努力ではないですよね
「確かに、これだけ勉強しなくちゃいけないというのは、10年前には想像し得なかったことではあります。ただ、AIによって全体的なレベルが上がったこともあり、棋士はみんなきつくなった。私だけがきついわけじゃない、という思いでやっています」