藤井二冠の将棋は正統派で、羽生さんに重なるところがあります。序盤から考え、相手が得意で自分があまり経験のない形に飛び込む。そうやって、相手の豊富な知識を自分のものにしようとする貪欲さ。長く活躍する棋士はみなこれを持っています。羽生さんの場合は根底に好奇心がありますが、藤井二冠の原動力も同じではないでしょうか。事前の準備をいくらしても、実際の対局で自力で考えて出す結論にはかないませんから。

藤井将棋は、負けた対局でも光ります。彼は形勢が態度に出るタイプで、苦しくなるとうなだれます。けれど決してあきらめてはいない。勝負手を考えているんです。どうすれば逆転できるか、複雑な局面に持っていけるかということを、うなだれながら必死に考えます。大差で負けることはないし、負け将棋でも見せ場を数多く作る。決して相手を楽には勝たせません。

今年4月、5月。対局ができなくなり、学校も休みになって家で自分の将棋を見つめ直した2ヶ月間で、彼はまた一段と強くなったと思います。読みがさらに鋭くなったのはもちろん、ギアチェンジがうまくなりました。指し回しに緩急をつけ、自分でペースを作る。これも羽生さんが得意とするところです。

二冠達成の快進撃が続いたことで、これからはトップ棋士たちとの対局も増えてきます。ライバル棋士たちは藤井包囲網を巡らせるでしょう。低段のときには予選も含めた勝率が8割を超えていましたが、今後トップ棋士ぞろいの対局で8割勝たれてしまうと、先輩棋士はたまらないでしょうからね。彼らは、藤井二冠がこれまであまり経験したことのない戦法で勝負を仕掛けてくると思います。さらに、やはり藤井二冠の終盤力には一目置いているので、序盤を飛ばし、終盤戦で少しでも持ち時間を多くすることで互角に持っていこうとするでしょう。その中でどう戦っていくかが見どころです。
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