「あら? こんにちは」
 チャイムを押すと女は驚いた顔をのぞかせた。
「どうも突然。娘がショートケーキを買ってきてくれまして、お裾分けです」
「あら、ありがとうございます。あ、ちょっとお待ちください」
 一旦ドアを閉め、女は直ぐに戻ってきた。
「親戚から結婚祝いに貰ったのですが、二人共、お酒が飲めないので」
「これはどうも。かえって申し訳ない」
「いえいえ。それにしてもお庭、綺麗にお手入れなさってますね」
 女は私の肩越しに、庭を褒める。
「“公務員” の仕事を辞めてから始めたものですから、たいしたことは」
「今度ゆっくり見せてもらってもいいでしょうか?」
「ええ、いつでも」
 礼をして、そのまま自宅に引き返した。
(私の仕事に興味を示さない? 元刑事と知っているからなのか……それとも)
 考えても埒があかない。こちらから探りを入れてみた。身の危険があるから娘には家に来るなと伝えてある。ショートケーキは、自分が買い求めた物だ。