執筆時間45分 即興


石附源三は諸国を巡る牢人であった。
 時には北條、そしてまたある時には佐竹など諸家に加わって戦に明け暮れた。
 八尺を超える大きな体躯に鋭い槍捌きで斃した敵の首は数百を超える。
 そんな時、源三は甲斐の武田信虎が大規模に牢人衆を集めているとの噂を聞きつけた。
 何でも手柄次第で仕官の道も開けるし、首の値打ちも高いとの事。
 それに魅力を感じた源三は早速、甲斐に赴き信虎の下に加わった。
 石和の館には既に多くの牢人衆が集まり梁山泊の体を成していた。
 源三は戦場で獲得した、幾十枚もの感状を持って行くと問題なく取り立てられた。
 上意之足衆が勢揃いすると、家臣に伴われた信虎がやって来た。
 七尺の長身に色白で天狗の如く鼻が高く、色白で気品に満ちた外見である。
 二十六との事だが、まだ十代の後半に見えなくもない。
 だがその外見とは裏腹に上意之足衆に対する訴えは剛毅に満ちていた。
「此の甲斐は私利私欲、悪逆非道に満ちた輩が満ちて居る! この信虎に逆らう輩は女子供、一寸の虫に至るまで
撫で切りに致す所存じゃ! お主達の腕に期待して居るぞ! 首を沢山持ってこい! 銭は其の分だけ、遣わす!」
 まるで獲物を狙う虎の如き目を見せながら大音声で叫んだ。
 此の信虎という国主は身内に裏切られ、逆らう者どもを斬り伏せ乍ら、今の地位を気づいたと言う。
 永正十七年信虎様に逆らった大井氏を打つべく上意之足衆二千を率いて冨田城に向かった。
 大井氏は援軍を得て七千の軍勢で迎え撃った。
 富田城近くの戸田の集落で大井軍が屯しているのを物見が伝えて来た。
 源三は信虎の側にあった。
「良し! 大義であった! 下がって休め!」
 物見を労うと、
「此れより、一気に大井の者どもを撫で切りに致す!」
「敵は七千、御味方は二千ばかり、無謀に御座いまする!」
 家臣の一人が諫言したが、
「この臆病者め! うぬが如き輩に用はない!」
 そう言うと太刀を抜き首を刎ねた。
「手勢を纏めよ! 出陣じゃ!」
 血に濡れた太刀を掲げて命じた。
 信虎率いる二千が戸田の集落に近づいたが、敵は油断しているのか全く反応がなかった。
「掛かれ! 総掛かりじゃ!」
 信虎自ら先頭に立ち、七尺五寸の大太刀右肩に担いで抜刀走りで突撃していった。
 七尺を超える太刀をまるで普通の太刀を扱うか如く振り回し、次々に敵を斬り伏せた。
 或る敵兵はまるで竹を割ったように真っ二つに割れた。
 総大将自ら突撃し斬りまくる姿に恐怖した大井勢は瓦解し、一方的な撫で切りに終始した。
 戸田の集落で大勝利を収めた信虎軍は一気に冨田城も攻めた。
 守備兵は殆ど居なかった。
 余裕が見えた信虎軍は女性を見つけては乱坊取りをした。
 信虎自らも女子を捕まえては着物を剥ぎ取って喰らい付いた。
「皆の衆! 女子は好き放題に致せ!」
 そう言うと高笑いした。
 拙者も品の良い娘を見つけた。
 唐衣が良く似合う。
 だが、源三は躊躇した。
「源三、如何いたした、まだ嫁が居ないのであればその女子をくれてやる、好きに致せ!」
 信虎が言った。
「有難き幸せ! 某が貰い受けまする!」
 源蔵は礼を言うと女の手を引っ張り城の外へ連れ出した。
 この女子の名前はツンと言った。
 細面で切れ長の目、まるで京の女子を彷彿とさせた。