消したはずの写真が勝手に“復活”
 その後もカトウさんの彼女は「まだ幽霊がいる」とひっきりなしに言っていた。カトウさんは当時ネットなどに載っていた「合わせ鏡にして写真を撮ると心霊写真が撮れやすい」という情報を参考にし、部屋の中で合わせ鏡をして写真に撮った。しかしそこには幽霊らしきものは何も写っていなかった。

「ほら、何も写ってないやん。幽霊はおらへんから大丈夫やって」

 そう言って彼女の心を落ち着かせ、撮った写真はその日のうちに削除した。

 しかし次の日、フォルダを確認すると、消したはずの写真が何枚か残っていた。おかしい、全部消したはずなのに、そう疑問を抱きながらも残っていた写真を見てみると、鏡の中には何もないのに、鏡の外からこちらを覗く男の顔が写っていた。青白い、ムンクの「叫び」のような顔をしていた。カトウさんはその写真をすぐに消した。

7年目に気付いた“603号室の謎”
 今年に入って僕は、お世話になっている不動産屋に頼んでこの1軒目のマンションを7年ぶりに内見させてもらった。そして自分が住んでいた6階のフロアを見た。7年前と変わりはないが、今になって気づいたことがあった。それは「3号室がない」ということだ。

 601、602、604、605……

 603号室がない。これは6階のフロアだけではない。各階に3号室がないのだ。

 不動産屋に尋ねてみると、元々このマンションは違法建築だったそうで、十数年前にそのことが発覚し、大幅な改修工事が行われた。その時にかなりの居住スペースを削らないといけなかったのであろう。おそらく規定の容積を倍近くオーバーしていたのではないかと、不動産屋は言う。

 カトウさんがかつて住んでいた、エレベーターからすぐの部屋は603号室だ。カトウさんにそのことを報告すると、感慨深げに「まあ、あの部屋気持ち悪かったからなぁ」と言った。僕が住み始めたときには、すでにカトウさんが住んでいた603号室はなくなっていたことになる。
破棄庫裏の
あの男は、もしかしたら……
 ここで僕はあることに気づいた。僕が見た、後輩の後ろにピッタリとくっついていたニット帽の男。あれはもしかしたら、“かつての603号室”から出てきたのではないだろうか。