【コソアソ】コッソリアソケート【164モリタポ】
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「ロボットに掃除をさせるのが、意外と難しいという事を知っているかい?」
そう言いながら、満面の笑みを浮べリビングに入って来た夫を見て、妻は早くもうんざりした気持ちになった。
……また、始まったわ。
夫は結婚して以来、定職にも付かず地下の研究室に籠って、わけの分からない研究に没頭していた。時折、嬉しそうに研究室から出てきては、発明品とやらを披露する時以外、ろくに妻や娘と話をしようともしない。
それでも、その発明品のいくつかは特許を取れているので生活に困らないぐらいの特許料収入は入っていた。
「それで、今回は何を発明したの?」
「掃除ロボットだ」
「はあ? もうあるでしょ」
妻が指差した先では、円盤型の掃除ロボットが床を動き回っている。 「僕の発明は画期的だよ。ちょっと見てくれ」
夫は掃除ロボットの行く手に立った。するとロボットは夫を避けて通る。
「このロボットは超音波のエコーで障害物を感知できる。しかし、障害物を避けるだけで障害物をどけることができない。そこでだ」
夫がそう言うと、部屋にメイド服姿の少女が入ってきた。
「この子は? あなた、まさかこんな小娘と浮気でも……」
「滅相もない。この子はロボットだよ。さあ、挨拶して」 少女は妻に向かってお辞儀した。
「初めまして。奥様。私は生活補助用に開発されましたガイノイドP0371です。どうぞPちゃんと、親しみを込めて呼んで下さい」
「Pちゃんて……ロボットなの? で、あなた。なんでメイド姿なの? あなたの趣味?」
「違うよ。このアンドロイドは、知人から譲ってもらった中古品で、元々メイド姿だったんだ。僕はそれを改造しただけだよ」
「じゃあ、市販品なのね」
妻はPちゃんの型番を調べて、検索をしてみた。ほどなくてしてカタログデータが見つかる。
「あなた。このアンドロイド、性欲処理機能があるそうだけど、まさか使ったんじゃないでしょうね?」 「め……滅相もない! 僕はそんな機能があるなんて知らなかった。このPちゃんには、掃除機のセンサーが感知した障害物を先回りしてどけてくれる機能を持たせただけだ。他の用途には一切使っていない」
「ふうん」
妻は疑わしそうな視線を夫に浴びせた。
「ではPちゃん。やってくれ」
掃除ロボットの行く手にテーブルがあった。Pちゃんは、すたすたと歩み寄り、テーブルを持ち上げると……
「障害物排除!」 Pちゃんに投げ飛ばされたテーブルは、壁に激突して壊れた。
「きゃあ! なにするのよ!?」
「はい。奥様。掃除の障害を排除しました」
ちょうどその時、掃除ロボットはテレビに向かっていた。
「障害物排除!」
Pちゃんはテレビを投げ飛ばす。
「排除! 排除! 排除!」
Pちゃんは次々と家具を投げ飛ばしていく。 「あれ? あれ? こんなはずでは……P0371起動停止」
夫の命令でPちゃんは停止した。
「改良の余地がありそうだな。もうしばらく研究室に籠っているよ」
Pちゃんを抱えて、夫は逃げるように部屋から出ていく。
「部屋を片付けていかんかーい!」
逃げる夫の背に、妻の罵声が浴びせられた。 「今度は大丈夫だよ」
夫が再びPちゃんを連れて研究室から出てきたのは、それから一週間後のことだった。
そんな夫を妻はギロッと睨む。
「どう大丈夫だと言うの?」
「やはり、高性能のロボットに掃除ロボットの補助をさせるという考えが間違っていた。そこで今度はPちゃんを、整理整頓ロボに作り直したんだ。例えばこれ」
夫は二冊のマンガ本を取り出す。
「こっちのマンガ本は読み終わった本、こっちは読んでいる途中」
夫は二冊のマンガ本を床に落とす。
「Pちゃん。このマンガ本を片付けて」
「はい。ご主人様」 Pちゃんは読み終わったマンガ本を本棚に入れて、読みかけのマンガ本をテーブルの上に置いた。
「このように、僕にとって最適の状態に整理してくれる」
「こういう風に片付けるように、あなたが予め指示したのではないの?」
「そうではない」
夫は頭に着けていたバンダナのような装置を外した。
「これはBMI(ブレイン マシン インターフェース)だ。この装置でPちゃんは、僕の思考を読み取ってマンガ本を片付けてくれた」 夫は妻の頭にBMIを装着した。
「何事にも実験が必要だ。そこで、今夜、君はこれを付けたまま寝てくれ」
「寝ているだけでいいの?」
「寝てる方がいいんだ。起きていると雑多な思考に邪魔されてうまく行かない。睡眠中の君がレム睡眠に入ると、Pちゃんは稼働する。君は夢の中でPちゃんに指示を出して、整理整頓をさせるんだ。成功したら、翌朝、目を覚ましたときには家の中はすっかり……」
綺麗になっていた。
家中を占領していたガラクタはすっかり姿を消し、フローリングの床は、ピカピカに磨き上げられ、畳や絨毯の上も隅々まで掃除機が掛けられていた。 可燃物と不燃物に分けられたゴミは、袋に詰めて玄関に置いてあった。その横のダンボールには、古着やペットボトルなどリサイクル品が入っている。食器や衣類、本などはすべて彼女の思い通りの食器棚や箪笥、本棚などの家具に、きちんと分類整理されて収納されていた。
「あの人の発明も、たまには役に立つのね」
ほんの少し感動を覚えた直後、リビングの扉が開き、五歳になる娘が泣きながら飛び込んでくる。 「ママ!! パパがどこにも、いないよぉ!!」
「どうしたの?」
娘を抱き止めて事情を聞いた。
「今朝は一緒にペスを散歩に連れて行こうって約束したのに。パパったら、どこにもいないの! お部屋にも、お便所にも、お庭にも」
娘はどうやら、家中探し回ったらしい。
「まったく。こんな可愛い娘をほったらかして、どこへ行ったんだか……。あの粗大ご……!?」
その時、妻の脳裏に嫌な予感が過ぎった。 「ま……まさか?」
チャイムが鳴ったのはその時……
インターホンの画面には清掃局職員の男が映っていた。
『奥さん。困りますよ。こんな事をされては』
「あの、なんの事でしょうか?」
『回収依頼があるから来てみれば……我々はヒマ人じゃないのですよ』
「ですから、なんの事ですか?」
『とぼけるのですか? 旦那さんと何があったか知りませんがね、粗大ごみに出す事ないでしょ!』
男の背後には、紐でぐるぐる巻きに縛られた夫を、他の職員が助けている様子が映っていた。
完 引用元:
メイドロイドPちゃん
2019-03-28 17:01:34更新
津嶋朋靖
2,521 文字
https://m.magnet-novels.com/novels/58886/episodes/124901
以上、NHKおじさんが1600円獲得した受賞作からの引用でした。 「ロボットに尿意を制御させるのが、意外と難しいという事を知っているかい?」
そう言いながら、満面の笑みを浮べリビングに入って来た夫を見て、妻は早くもうんざりした気持ちになった。
……また、始まったわ。
夫は結婚して以来、定職にも付かず地下の研究室に籠って、わけの分からない研究に没頭していた。時折、嬉しそうに研究室から出てきては、研究成果とやらを披露する時以外、ろくに妻や娘と話をしようともしない。
それでも、その研究成果に金を出している好事家がいるとかで、生活に困らないぐらいの収入は入っていた。
「それで、今回は何を発明したの?」
「尿意制御ロボットだ」
「はあ? もうあるでしょ」
妻が出したスマホの画面では、尿意お知らせアプリのキャラクターが「あと1時間47分で限界だよ!」と笑顔を見せている。 レス数が950を超えています。1000を超えると書き込みができなくなります。