女児虐待死事件でメディアがぜったいいわないこと 週刊プレイボーイ連載(343) 
(橘玲、2018-07-09)
https://www.tachibana-akira.com/2018/07/11150

目黒区で5歳の女児が虐待死した事件では、「きょうよりか もっともっと あしたは
できるようにするから もうおねがい ゆるして」などと書かれたノートが発見され、
日本中が大きな衝撃に包まれました。このような残酷な事件が起きないようにする
ために、いったいなにができるでしょうか。

この事件について大量の報道があふれていますが、じつは意図的に触れていない
ことが2つあります。

女児を虐待したのは義父で、母親とのあいだには1歳の実子がいました。じつはこれは、
虐待が起こりやすいハイリスクな家族構成です。

父親は自分の子どもをかわいがり、血のつながらない連れ子を疎ましく思います。母親
は自分の子どもを守ろうとしますが、それ以上に新しい夫に見捨てられることを恐れ、
夫に同調して子どもを責めるようになるのです。なぜなら進化論的には、ヒトは自分の
遺伝子をもっとも効率的に残すよう“プログラム”されているから……。

これが進化心理学の標準的な説明で、こうした主張を不愉快に思うひとは多いでしょうが、
アメリカやカナダの研究では、両親ともに実親だった場合に比べ、一方が義理の親だった
ケースでは虐待数で10倍程度、幼い子どもが殺される危険性は数百倍であることがわか
っています。

もちろん連れ子のいるほとんどの家庭は虐待とは無縁で、偏見につながらないような配慮
は大事ですが、残念なことに、「進化の圧力」に抗する理性をもたない親が一定数いること
はまちがいありません。児童相談所がこのリスク要因を正しく把握していれば、もっと強い
対応もできたのではないでしょうか。