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花嫁は、夢見心地で首肯いた。
メロスは、それから花婿の肩をたたいて、
「仕度の無いのはお互さまさ。私の家にも、宝といっては、妹と羊だけだ。
 他には、何も無い。全部あげよう。
 もう一つ、メロスの弟になったことを誇ってくれ。」
花婿は揉み手して、てれていた。
メロスは笑って村人たちにも会釈して、宴席から立ち去り、
羊小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。

眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。
メロスは跳ね起き、南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、
これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。
きょうは是非とも、あの王に、人の信実の存するところを見せてやろう。
そうして笑って磔の台に上ってやる。メロスは、悠々と身仕度をはじめた。
雨も、いくぶん小降りになっている様子である。
身仕度は出来た。さて、メロスは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。

私は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。
身代りの友を救う為に走るのだ。王の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。
走らなければならぬ。そうして、私は殺される。
若い時から名誉を守れ。さらば、ふるさと。
若いメロスは、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。
えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。