私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かった。
神も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。動けなくなるまで走って来たのだ。
私は不信の徒では無い。
ああ、できる事なら私の胸を截ち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。
愛と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。
けれども私は、この大事な時に、精も根も尽きたのだ。
私は、よくよく不幸な男だ。私は、きっと笑われる。
私の一家も笑われる。私は友を欺いた。
中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。
ああ、もう、どうでもいい。
これが、私の定った運命なのかも知れない。
セリヌンティウスよ、ゆるしてくれ。君は、いつでも私を信じた。
私も君を、欺かなかった。私たちは、本当に佳い友と友であったのだ。
いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。
いまだって、君は私を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。
ありがとう、セリヌンティウス。
よくも私を信じてくれた。それを思えば、たまらない。
友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだからな。
セリヌンティウス、私は走ったのだ。君を欺くつもりは、みじんも無かった。
信じてくれ! 私は急ぎに急いでここまで来たのだ。

濁流を突破した。
山賊の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。
私だから、出来たのだよ。ああ、この上、私に望み給うな。
放って置いてくれ。
どうでも、いいのだ。私は負けたのだ。
だらしが無い。笑ってくれ。
王は私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。
おくれたら、身代りを殺して、私を助けてくれると約束した。
私は王の卑劣を憎んだ。
けれども、今になってみると、私は王の言うままになっている。
私は、おくれて行くだろう。
王は、ひとり合点して私を笑い、そうして事も無く私を放免するだろう。
そうなったら、私は、死ぬよりつらい。

私は、永遠に裏切者だ。地上で最も、不名誉の人種だ。
セリヌンティウスよ、私も死ぬぞ。君と一緒に死なせてくれ。
君だけは私を信じてくれるにちがい無い。
いや、それも私の、ひとりよがりか?
ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。
村には私の家が在る。羊も居る。
妹夫婦は、まさか私を村から追い出すような事はしないだろう。
正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。
人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法ではなかったか。
ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ。
どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉。
――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。

   ∧∧
  (  ・ω・)   セリヌンティウス・・・
  _| ⊃/(___
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  <⌒/ヽ-、___ もうどうでもいいわ。勝手にするがよい
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