細野さんと出会った時に感じたことは、山下くんの時とよく似ています。
ぼくは細野さんの音楽を聴いて「この人は当然、ぼくが昔から聴いて影響を受けてきた、ドビュッシーやラヴェルやストラヴィンスキーのような音楽を全部わかった上で、こういう音楽をやっているんだろう」と思っていたんです。
影響と思われる要素が、随所に見られましたから。
でも、実際に会って訊いてみたら、そんなものはほとんど知らないという。
たとえばラヴェルだったら、ボレロなら聴いたことがあるけど、という程度。
ぼくがやったようなやり方で、系統立てて勉強することで音楽の知識や感覚を身につけていくというのは、まあ簡単というか、わかりやすい。
階段を登っていけばいいわけですから。でも細野さんは、そういう勉強をしてきたわけでもないのに、ちゃんとその核心をわがものにしている。いったいどうなっているのか、わかりませんでした。
耳がいいとしか言いようがないわけですけれど。

(坂本龍一『音楽は自由にする』新潮文庫)