サツキの剣が、先鋒の敵将を突き上げ、両断した。
花びらが舞い散る。敵陣に乱れはない。
固い甲羅のような陣の外殻を斬りながら、サツキは軍を二つに分けた。
左右から包囲の構えを見せたのだ。敵の兵卒は必死な顔を見せる。しかし、敵陣からはやはり揺らぎのような物が見えてこない。
亀のような敵陣は、火を使って徹底的に叩いておきたかったが、ほとんど勘のようなものでサツキは退路を警戒した。
「一度反転する、丘の上から、見下ろしてやろう」
サツキは側近の者らに笑みを向けたのち、漆黒に包まれた戦場を睨み付けた。

勘のような物が、働いた形となった。
小高い丘を登る前から、こちらを包囲しようとしてくる敵の新手が2軍現れ、すんでの所で挟撃を回避出来たのだ。
「感服致しましたよサツキ様、まさか敵の二軍に包囲されかかっていたとは」
「感じたんだよ、僕たちに向ける、害意みたいな意思を。軍が放つそれは、時に個人が放つ殺意より強く、香るのさ」
丘に植生する鮮やかな花を3本、サツキは摘み取った。
サツキは強く、賢く、疾い。
軍人として秀でているだけではなく、
サツキには軍人らしからぬ美性も備わっていた。
それが時には味方を鼓舞し、敵を畏怖させるのだ。
「もうすぐ夜明だ」
丘の下、敵の陣、眼下に三つある。明らかにこちらの逆落としを警戒していた。
背では、朝日が立ち昇ろうとしている。
東からは味方の軍が急行していた。
丘に視界を塞がれ、敵からは見えないはずだった。
サツキは味方に愛されているだけではない。
天に愛され、後光射す暁の祝福すら、受けようと言うのだろう。

メルファリア戦記〜サツキ伝〜