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 安倍晋三元首相の銃撃事件で、殺人容疑で送検された山上徹也容疑者(41)。奈良県警などの取り調べに対し、安倍氏が出ていた「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」の友好団体「天宙平和連合(UPF)」のビデオメッセージを見て「殺すしかないと思った」と供述したという。

 安倍氏は昨年9月、UPFの大規模集会にビデオメッセージを寄せ、「各地の紛争の解決に努力してきた(統一教会教祖の)ハン・ハクチャ総裁をはじめ皆さまに敬意を表します」とあいさつしていた。

 供述内容が報じられると、テレビのワイドショーなどでは出演者が、「秘書がきちんと対応していれば事件は起きなかった」、「安倍さんはUPFについて、よく知らないまま、メッセージを出したのだろう」などとコメントしていたが、果たしてそうだろうか。

 旧統一教会による被害者の救済活動を展開する「全国霊感商法対策弁護士連絡会」は今から16年前の2006年6月、当時は内閣官房長官だった安倍氏に公開質問状を出している。安倍氏が、この年の5月13日にマリンメッセ福岡で開かれたUPFの「祖国郷土還元日本大会」に対し、「内閣官房長官」の肩書きで祝電を送ったことに懸念を示したのだ。

 質問状では、①どのような事情で祝電を送ったのか②UPFが統一協会系であることを知っていたのか③今後も統一協会の組織活動について同様の対応をする考えがあるのか──だった。しかし、安倍氏側は何ら回答せず、メディア取材に対して「私人としての立場で地元事務所から『官房長官』の肩書で祝電を送付したとの報告を受けている。誤解を招きかねない対応であるので、担当者にはよく注意した」とのコメントを出しただけだったという。

弁護団の抗議や申し入れを真摯に受け止め、適切に対応していれば…

 連絡会はこうした安倍氏側の対応を批判し、さらなる公開質問状を送付している。内容はこうだ。

〈貴殿が統一協会の集会に祝電を送るということは、貴殿が統一協会の活動に賛同し、これを激励している趣旨であることは、誤解されようのない事実です。統一協会は、今日もなお、きわめて多数の善良な市民に対し、先祖因縁による脅迫を行い、その資産の全部を奪い取る反社会的活動を継続しています〉

〈本来、貴殿は、内閣官房長官として、統一協会のこうした反社会的な活動に対し、善良な市民を守るために適切な施策を講じる責任を負っているはずです。そうした役割を期待されている貴殿が、今回の行動により、逆に統一協会の反社会的な活動にお墨付きを与え、これを援助、助長していることについては、法律上も多大な問題を有すると指摘せざるを得ません〉

〈当連絡会は、貴殿に対し、反社会的な活動を行っている統一協会とのこれまでの関係をきちんと明らかにし、今後は統一協会との関係を絶つよう求めます〉

 この経緯を振り返る限り、安倍氏はUPF=統一教会がどのような団体なのかはハッキリと認識していただろう。政治家として、また官房長官という政府の要職にある身として、この時、弁護団の抗議や申し入れを真摯に受け止め、適切に対応していれば、少なくとも今回の惨劇が起きることはなかったのではないか。