研究室に行ってみた。東京大学 認知神経科学・実験心理学 四本裕子
第5回 「男脳」「女脳」のウソはなぜ、どのように拡散するのか

2017.02.17

「間違った心理学で、男性がこう、女性がこうとか、世の中ではよく言われていますね。例えば、男女の脳の違いとして、男性の方が左右の脳の連携がよくないとか。これには、元になった論文がありまして、1982年に『サイエンス』誌で発表されています(※)。男女それぞれ、脳梁の太さを測ったら、女性のほうが太かったと。でも、この論文のデータは男性9人、女性5人からしかとってないんです。それだけで、女性のほうが左右の脳の連絡がよくできてるっていう結果にしている。そもそも信頼性がないし、その後、いろいろな研究者が再現しようとしたんだけど、結局できてません。今さすがにこれを信じている脳科学者はあんまりいないんですよ」

 現在の知見では、少なくとも形態上、男女の脳に違いはない、ということになっているそうだ。しかし、「男女の脳」「脳梁」といったキーワードで検索すると、驚くほどたくさんの結果がヒットして、「脳梁が太いから女性はおしゃべりで、感情的」みたいなことが平気で書いてある。

 では、「脳の性差」を研究する四本さんは、「性差がない」と見越した上で研究を進めているのだろうか。もちろん、「ない」ことを証明するのは難しいし、科学的な議論としては、検出できる違いがあるか、あるならどの程度か、ということになるのだろうが、それでも、見通しがどの方向なのかというのは知りたい。

「私、別に男女の脳に差がないとは全然思ってなくて、絶対あると思ってるんです。でも、じゃあ、それがどんな差なんだろうっていうときに、気をつけてもらいたいことがあります。たとえば、これを見てください。メンタルローテーション課題というんですけど、立体図形を頭の中でクリクリッと回して、一致するものを探す課題ですね。これって、世の中にある諸々の課題の中で一番、男女差が出しやすいっていわれてます」