デイビッド・E・カプラン、アレック・デュブロ「ヤクザが消滅しない理由。」2003年

占領が終わりに近づくと左翼勢力の権利獲得の動きに恐れを懐く右翼政治家が出てくる。
吉田茂政権の法務総裁・木村篤太郎もそうであった。
木村は或る会合で、「共産党員らが日本中で決起し、流血革命が起こる」
「共産党が暫定政府を長野県に樹立するという情報がある」「警察予備隊の幹部の中に共産党員が多数いる」
「警察もあてにできない。警察予備隊を敵に回すことも大いに有りうる」と話し、
「国家を守るため共産党と必死に戦う、信念ある人間を集めて頂きたい」と懇請した。
木村の忠実な部下である辻宣夫がそれに応えた。
「法務総裁、バク徒とテキヤ、愚連隊を除いては、命を賭けてくれる者など他におりません。
万一共産党員たちが決起した場合には親分のためなら命も捨てる、この連中をおいて他におりません」
辻は木村に、カネがあれば自分は恐らく犯罪者からなる特別攻撃隊、バク徒、テキヤ、
愚連隊の連中からなる民兵隊(特別攻撃隊)を編成できると思うが、その数は数百万人はいるので、
その中に二〇万人は頼りになる反共の闘士がいると、見込みを語った。

木村は辻らの手を握り歓喜の涙を流して言った。
「二〇万人もが要請に応えてくれるのか!有り難いことだ。彼らを集めることができれば、国家は安泰だ」
「決してカネで心配はかけない」 
この部隊は、「愛国反共抜刀隊」と呼ばれ、日本青少年善導協会が隠れみのとして使われた。
木村はこの全構想を政府の下で行なうべく計画し、政府内部から右翼とヤクザの結びつきを築こうとした。
しかし彼が右翼とヤクザを再度結びつけたことは、児玉など戦前の超国家主義者たちが社会へ、
選挙によって公職の場へ、さらに企業の重役室へ戻ることを許したに等しい。
これにはSCAP(連合国軍最高司令部)の政策変更に原因があった。
占領が終了する時点で木村は日本全土をまとめあげ、戦後初めてヤクザと右翼の全国同盟を組織し、
法執行機関の長が分裂していたヤクザ団体を結束力ある一つの暗黒街に作り上げたのである。
これは異常なことであった。