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「民主主義」と云ふ語に就いても法律上の意義に於ての民主主義は君主政とは?對に相兩立しないものであるが、
政治上の意義に於ての民主主義は君主政の下に於ても十分に實現せられうべきもので、法律上は假令君主が一切の統治權を總攬し、
國家統治の大權は總べて君主の名に於て行はれるとしても、政治の實際に於て、若し君主が民の心を以て心となし、
統治の大權が總べて民意に順つて行はれるとすれば、法律上には君主政であつても、而も政治上は民主主義に依るものに外ならぬ。
 例へば英國は政治上には一般に民主主義の國と謂はれてをるけれども、法律上から謂ふと英國でも總べての法律は國王の裁可に依つて始めて成立し、
議會は國王に依つて召集せられ、國務大臣を初め一切の官吏は國王がその任免權を有し、裁判所は國王の名に於て司法權を行ふのであつて、
法律上は明白に君主制の國であり、而も世界のゥ國の中でも、我が國と共に君主主義の基礎の最も堅い國の一である。
 同じく憲法と謂ひ民主主義と謂つても、斯く二重の意義を區別せねばならぬのであるが、「憲法の民主主義化」といふ場合の所謂「憲法」は實質的意義の憲法であり、
その所謂「民主主義」は政治的意義の民主主義であることは論ずるまでもなく明白である。
即ち法律上の形式如何は必ずしも重きを置く所ではなく、政治上の實際に於て國家統治の大權が民意を基礎とし民意に順つて行はれることを保障しう可き國家組織を爲すことが
所謂「憲法の民主主義化」の要求する所に外ならない。
斯有る意味に於ての民主主義化は敢へて憲法の改正を待つまでもなく、現行の我が憲法(帝國憲法)の下に於ても、十分にこれ(ポツダム宣言の要求)を實現することが出來る」
(以下略)