その手が流れるように自身の髪を梳いた。「ごめん。話に来たのにね」雰囲気がガラリと変わり、落ち着いたものになる。知らないうちに背筋が伸びた。

「俺がここに来たのは、或人が仮面ライダーになったから」
「……うん」
「ライダーって面白いんだよ。俺含めて21人いるんだけど、みんな『兄弟』の間柄になるんだ」
「ちょ、ちょちょちょっと待って。兄弟!?」

曰く。
仮面ライダーという存在に成ると、歴戦の戦士たちと絆で繋がった『兄弟』となる。
家には歴代のライダーが総勢21名おり、助け合いながら共に暮らしている。

「――だから、仮面ライダーになった或人を迎えに来たってわけね」
「え、えぇ〜〜……?」
「ここまではいい?」
「いい、けど……にわかには信じられないっていうか」
「みんなそうだと思うよ」
「ソウゴ……も、そうだったのか?」
「俺は違ったけどね!」
「違うのかよっ!」
『お待たせしました。ミルクティーとお冷です』
「ありがと! ……でも無理強いはしないよ。拒否されたからって下手な干渉もしない」

もう何がなんだか……。或人はキャパシティーオーバーで頭を抱えることになった。
『ただ兄弟であること』は忘れないでほしい――と、言われても。忘れられるかよっ! ツッコミは脳内で行った。口から発する元気がなかった。

「オレを連れて帰れなかったら罰則……とか……――って! 行きたくねぇとかじゃなくて」
「あっはは! ないない! 心配しなくていいよ」

でも。と、ソウゴは前置きした。これは個人的な話だけど。
結露のついたグラスの輪郭をなぞる。カランカラン、カラリ。氷が音を立てて揺れた。