(要約すると「うろ覚えのレイモンド・チャンドラーによる小説を書くコツを僕の商売に使います」
という小鷹信光や三条陸がキレそうなクソみたいな前置きの後)

 何はともあれ、僕はそれをチャンドラー方式と呼んでいる。
 まずデスクをきちんと定めなさい、とチャンドラーは言う。自分が文章を書くのに適したデスクをひとつ定めるのだ。
そしてそこに原稿用紙やら(アメリカには原稿用紙はないけれど、まあそれに類するもの)、万年筆やら資料やらを揃えておく。
きちんと整頓しておく必要はないけれど、いつでも仕事ができるという態勢にはキープしておかなければならない。
 そして毎日ある時間を ーー たとえば二時間なら二時間を ーー そのデスクの前に座って過ごすわけである。
それでその二時間にすらすらと文章が書けたなら、何の問題もない。しかしそううまくはいかないから、まったく何も書けない日だってある。
書きたいのにどうしてもうまく書けなくて嫌になって放り出すということもあるし、そもそも文章なんて全然書きたくないということもある。
あるいは今日は何も書かない方がいいな、と直観が教える日もある(ごく稀にではあるけれど、ある)。そういう日にはどうすればいいか?
 たとえ一行も書けないにしても、とにかくそのデスクの前に座りなさい、とチャンドラーは言う。とにかくそのデスクの前で、二時間じっとしていなさい、と。