学生だった私にとっての、最初の「名言」は、井伏鱒二の
  花に嵐のたとえもあるさ
  さよならだけが人生だ
 という詩であった。
 私はこの詩を口ずさむことで、私自身のクライシス・モメントを何度のりこえたか知れやしなかった。
「さよならだけが人生だ」という言葉は、言わば私の処世訓である。
私の思想は、今やさよなら主義とでも言ったもので、それはさまざまの因襲との葛藤、人を画一化してしまう権力悪と正面切って闘う時に、
現状維持を唱えるいくつかの理念に (習慣とその信仰に) さよならを言うことによってのみ、成り立っているところさえ、ある。
「去りゆく一切は、比喩にすぎない」とオスワルト・シュペングラーは歴史主義への批判をぶちまけている。
たしかに、過ぎ去ってしまった時は比喩、それを支えている言葉もまた実存ではないと言うことができるだろう。