むかし、あるところに一人の若者がおったと。
 若者は畑仕事のあいまに駄賃(だちん)働きするほどの働き者だったと。
 ある日、若者が駄賃働きで隣(となり)村へ荷(に)を運んで、帰りに空荷(からに)の馬に乗って山裾(やますそ)の野っ原にさしかかったら、ちょうどお日さまが山蔭(やまかげ)に沈(しず)もうとして、空も野もあたり一面、まっ赤に染めたと。
 「ほう、今日は格別(かくべつ)きれいな夕焼けじゃ」
と、見とれながら、なおも馬を進めて行ったら、野っ原の道の行手(ゆくて)に、見たことのない娘(むすめ)が一人、たたずんでおった。