若者は、こんな広い野っ原のまん中で、今にも日が暮れようとしているのに、どうしたことじゃ、と不思議(ふしぎ)がって馬を停(と)めた。
 「こんなところで、若い女の身一人、一体何しておるんじゃ」
 若者が声をかけると、娘はうつむいていた顔をあげて、恥(は)ずかしそうに若者を見た。娘の顔に夕日が映えて、そりゃあきれいだったと。
 「何というあてもなく、この夕景色(ゆうげしき)を楽しんでおりました」
 「日が暮れてしもうたらどうする。早う家に帰らにゃ」
 そう言われて、娘はまたうつむいて、首を横にふった。
 「わたしには、家はございません。親も死んでしもうておりません。ひとりぽっちでございます」
 若者はこの娘がいとしくなったと。