むかし、あるところに一人の貧乏(びんぼう)な男があったと。
 ある日の晩方(ばんかた)、男が畑仕事をあがって、山道を帰っていたら、うしろでもうひとつ足音がして、それが山の畑のあたりから、ずうっとついてくるふうだ。気味悪くなってふりかえったら、いとしげな若(わか)い娘(むすめ)がにこっと微笑(ほほえ)んだと。
 「お、お前(め)ぇ、誰(だれ)だぁ。こんな山道になんでいるんだぁ」
 「おら、旅のもんだが、もう暗くなったすけ、今夜(こんにゃ)はお前(め)のどこに泊(と)めてもらいたいと思うて、あとをついてきた」
 「そうだったか。おらとこはおら一人で、ごっつおも無いが、それでいいけや(よかったら)泊まるがいい」
 娘は男と一緒(いっしょ)に帰って、泊めてもらった。