その子が二つか三つになった頃(ころ)、ある朝早くに、男が、
 「おらは田んぼを打ちに行くすけ、お前は、後から子供を連れて、朝飯と昼飯を持って来てくれや」
というて、山へ仕事に出掛(でか)けたと。
 かかが男の子に着物(べべ)を着せ替(か)えさせていたら、
 「かか、しっぽ。かか、しっぽ」
とびっくりしていうた。

 かか、からだをじゃがませたひょうしに、つい尻尾(しっぽ)を出してしまったと。かかは、
 「おらが狐(きつね)だってことが判(わか)ってしもたすけ、もうこの家にはおられん。お前はここで、じっとしとれよ」
というて、山へ帰ってしもたと。
 一方、山では男がいくら待ってもかかが来ん。腹(はら)がへって家へ帰って来たと。子供が泣いているのに、かかがおらん。
 「かか、どこ行ったぁ」
ときいたら、
 「かか、しっぽあった」
というた。
 男はびっくりしたと。
 「そうか、かかは狐であったか」
というて、悲しんだと。
かかがいなくなった家んなかは、さっぷうけいで風が吹(ふ)いているみたいだと。
 それでも男は一人で田んぼ仕事をして、いよいよ明日は田植えをいう日になった。