事件現場近くに残された通学バス=川崎市多摩区で2019年5月28日午前9時33分、梅村直承撮影
加害者の断罪ではなく、背景に思いを
 川崎市は29日の記者会見で、自分で首を切り死亡した岩崎隆一容疑者(51)について「ひきこもり傾向にあったという相談が親族から寄せられていた」と明かした。ツイッターでは、「被害者と直接的な関係者ではない私たちができることは、加害者の断罪ではなく社会状況、生まれや貧困や格差といった背景に思いをはせることだ」という声も上がる。
 小田嶋さんは「悲しみは人を無口にして不活発にするけれど、憎悪や怒りは人を雄弁にして活動的にする。SNSでは怒りの声が目立つが、そうではない意見があることも見逃してはいけない」と語った。
自殺を考えている人を追い込みかねない
 NPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」の清水康之代表は「自分の家族が(無差別殺傷の)犠牲になったとしたら、『ひとりで死ねばいいものを』と思わないでいる自信はない」とした上で、「社会としては別の受け止め方をすべきだ」と語る。
 清水さんは「命や暮らしが追い詰められて無差別殺人を企てる人に『ひとりで勝手に死んでくれ』と言っても何の実効性もない。そういう言葉はむしろ、他の人を自殺へと追い込みかねない」と指摘する。
 「自殺を考える人には(水面がコップなどの縁で盛り上がる)『表面張力』のように、やっとのことで生きることにとどまっている人が大勢いる。『死にたいやつは一人で死ね』『勝手に死ね』といった言説は、表面張力を決壊させる最後の一滴となりかねない。やるべきことは、
人を殺して自ら命を絶とうとする人々に『ここで生きていく方がいい』と思わせる社会を作っていくことではないか」