生きて出た者は一人もいない、監獄塔。
其の名はシャトー・ディフ。
この世に在りながら「地獄」とさえ称されしイフの塔。
許されざる大罪を犯した者どもを収監する、死の牢獄。

人は言う。地上の苦しみのすべてが其処に集う、と。
人は言う。怒り、嘆き、哀しむ声が絶えず響く、と。
人は言う。囚われたが最後、脱出など不可能だ、と。

故に、此処を生きて出た者がもしもあれば───
その者は、無限の怨嗟を背負う事になろう。
ヒトでありながらヒトではないモノになるだろう。
人間性のことごとくを超克した、
暗黒の鬼が如き者が顕れてしまうに違いない。

「そうだ! それこそがオレだ!
地獄に堕ちて、地獄を喰らって生き延びた者!
他の誰でもないオレだけが!
恩讐の彼方より顕れ出でて!
復讐を───この手で、成し遂げるのだ───」