1944年3月12日、第5SS装甲師団「ヴィーキング」師団長ヘルベルト・オットー・ギレSS中将に、ヘルマン・フェーゲラインSS少将から電話がかかってきた。
「SS中将、総統命令により直ちに戦闘団を編成し、コヴェルに行き、町を守れとのことです」
 ギレは答えた。
「フェーゲライン。戦闘団の編成を私が拒否したと総統に伝えてくれ。総統と個人的に話がしたい」
フェーゲラインSS少将は、ギレSS中将の伝言を拒否した。一々現地指揮官の要請を取り次げるものか。
「総統は会議中です」
「それならすぐに総統に会いに行くよ」
 ギレは飛行機でオーバーザルツベルクにいる総統に会いに行った。
 だが、ヒットラーは会見を拒否した。ギレは装甲部隊総監グデーリアン上級大将に会った。
ギレは総統命令に抗議した。
「何をお望みですか?もはや『ヴィーキング』は存在しないのです。われわれは消耗し尽くした出し殻です!」
 グデーリアンは装備、弾薬の補給と人員の補充を約束した。それからコヴェルの防衛を命じた。
 ギレは言った。
「上級大将閣下!私は将兵に命令できません。もはや出来ないのです。ですが大局的に判断するとコヴェルは守るべきです。コヴェルには一人で行って、町の防禦を固めます」
3月16日にギレはFi156フィゼラー・シュトルヒで、コヴェルの町に向った。
事前調査でコヴェルから戻ってきたばかりの主席連絡将校ヴェストファールSS大尉も一緒だった。
ヴィーキングの将兵も、やはりコヴェルに向うことになった。鉄道で東進する第9SS装甲擲弾兵連隊「ゲルマニア」と第10SS装甲擲弾兵連隊「ヴェストラント」上空をギレは飛んだ。
ギレがコヴェルの司令部を訪ねると、でっぷりと太り、銀縁眼鏡をかけた確地司令官フォン・デム・バッハツェウレスキー警察兼SS大将は茫然自失状態だった。
SS大将の作戦参謀ラインペル中佐が状況を説明した。強大なソビエト軍が既に町の東側に現れて守備隊を圧迫していた。
「ヴィーキング」の実態を知らない守備隊は、「装甲師団」が来るといって喜んだ。