スキヤキとロッキー・バルボア (共同 1/18)

(前略)▽太平洋スキヤキ戦争
海外で「スキヤキ」を前に思い出すのは、坂本九さんの大ヒット曲「SUKIYAKI(上を向いて歩こう)」。
海外に渡ったあの歌がなぜ「SUKIYAKI」というのか。

その理由は諸説あるようだが、あの曲を持ち帰った英国のプロデューサーが「KYU・SAKAMOTO」とSUKIYAKIという音の響きが
何となく似ているからという理由を聞いたとき、なるほどそれは面白い感覚だと思った。 
言葉にしてみるとちょっとオリエンタルで楽しい響きの「SUKIYAKI」。
「SUKIYUMMY」(スキヤキとYUMMY=美味しい=をかけた)という造語まである。

アメリカでスキヤキを作るのは大変だと聞いたことがある。 理由は牛肉を薄切りで売っていないから。
確かに、あんなに薄く丁寧にスライスされた霜降り肉など見たことがない。
さらに薄さが求められる「しゃぶしゃぶ」然り。 おそらく彼の国には「薄切り肉」という概念がなかったのだろう。

しかも、調理前の具材がテーブルに並べられ、たったひとつの鍋を大勢で囲み、さらにはそれを調理しながら食べる料理というのは、
欧米人から見れば異文化そのものなのだろう。 洋画のスキヤキを食べる描写はゲイシャとセットだったりする。

『MA★A★S★H(マッシュ)』(1970年ロバート・アルトマン監督)は、朝鮮戦争時代の移動米軍野戦病院キャンプでの医師たちの
日常を狂気と笑いで徹底風刺したブラックコメディだ。
在留する朝鮮半島から日本までヘリコを飛ばし、ゴルフと芸者遊びにやってくる医師たちが、料亭でゲイシャ(芸者)にスキヤキを
食べさせてもらっている場面がある。
私の想像だが、第二次大戦後に米軍が体験したスキヤキは、摩訶不思議な食べ物だったのではないだろうか。
(続く)