イジメよくない

鈴木智彦/SUZUKI TOMOHIKO@yonakiishi
ヤクザ専門誌の編集長だった頃、現役幹部にいじめ対策を聞いて回ったことがある。
「シャーペンで刺しちゃえ。ふとももあたり」
「授業中なら油断してる。後ろからバットで殴れ」
「怒れ、キレろ、反撃しろ、暴力を使え」は共通してて、ヤクザっぽくて面白かったんだけど、不穏当すぎてボツった。

「いじめは楽しい。なくならない。でもいじめられる側は本当に辛い。死にたくなるほど追い詰められる」
と語った親分もいた。
「いじめられる側の辛さを体験させてやればいい。そのガキをうちに連れてこい」
なんとか記事にしたかったのだが、のち裁判で証拠採用されたらまずいのでボツった。

結局、暴力団はいじめられる側の気持ちを分かってなかった。ほぼ全員が反撃しろとアドバイスしたが、それは強者の
ロジックだ。反撃できないから死ぬほど苦しんでいるのだ。うちに連れてこいと言った親分だけがそれを理解していた。
彼の提示した解決策は一貫して、自己解決を放棄せよ。強者を頼れだった

それでも暴力団は、いじめられている側の痛みを、今すぐ取り除く方法をあれこれ考え具体的に提示した。無茶で
反社会的であっても、そこから話がズレることはなかった。大人になれば忘れるとか、いじめはよくないとか、根本的な
解決にはならないとか、そんな回答をするヤクザは誰ひとりいなかった。