そう繰り返すばかりの鵜飼裁判長は、細い路地にもかかわらず、ペダルを漕ぐスピードをどんどん上げていく。
全力疾走で追いすがる記者を交差点で振り切り、散り始めた桜の花びらが舞う中、身を屈めながら街中へと姿を消してしまった。心の奥底に疾しい気持ちでもあるのだろうか……。

 実際、彼の下した「無罪判決」が、4月4日の共同電を皮切りに、全国紙で一斉に報じられて以降、世間に物議を醸しているのだ。ネット社会で曰く、

〈日本の司法、大丈夫か?〉

〈いや常識的に考えて無罪はないだろ〉

〈娘を強姦する父親が無罪って、今の日本ってどうなってるんだ?〉

 判決に対して疑問を持つ人が多いことが窺える。

 この裁判で罪に問われたのは、2年前の夏に起きたおぞましい出来事だ。当時、被害者女性は19歳。訴えによれば、被告人である実の父親は、2017年8月に自らの勤務先である愛知県内の事務所で、また9月には外出先のホテルで娘に性行為を強要したという。