愛妻弁当が話題になっているので、対局日誌からひとつ
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宮田五段は先ごろ結婚式をあげたばかり。
これが新婚第一局となるのだが、どういうわけか(あたり前というべきか)新婚ほやほやの棋士たちはみな愛妻弁当を持参する。
宮田はどうかな、と見回すと横に紙袋があって、そこにちゃんと入っていた。
(中略)
鶏肉のベーコン焼き、さやいんげんのゴマあえ、漬物。それにご飯が茶わんにおよそ二杯半分。さらに野菜サラダと、三つ重ねの豪華版。
(中略)
新婚手弁当組はかならず勝つそうだが、要するにスタミナがつくからなんですね。
不思議なのは、しばらくすると、このよき習慣をみなやめてしまうことだ。これが理解できない。

さてこの後結婚したのは、石田、土佐、田中(寅)、鈴木などだが、よき習慣は受け継がれてみな弁当持参である。
やっかみ半分に私もよくのぞくが、色どりもあざやかに新妻らしい作り方をしている。
それをうまそうに食われて、おまけに負かされては頭にくるから、最近は弁当組が相手の時はだれもが頑張る。
こんなことがあった。米長-石田戦のことだ。例によって石田は夕食も愛妻弁当をひろげ、再開後の第一手に勝ち急ぎの大悪手を指して負けた。
投げた直後に石田が悔むと、待っていたように
「君は弁当をうまそうに食っていたろ。そんなことするから奥さんと子どもが目に浮かんで、早く帰りたくなるんだよ」
と米長が冷やかした。
次の対局の時、石田は弁当持参をやめた。ここがまた石田らしいところである。
---将棋対局日誌集1 より