―カルポフ(前世界チャンピオン)は「チェスは自分の全生活の一部に過ぎない」と言ってますね。羽生さんの考え方も、これに近いですね。
 私も将棋と生活は別だと思っています。

―フィッシャー(元世界チャンピオン)はそうじゃない。彼にとっては「チェスは我が命だ」と。チェス界にもいろんな人がいるから面白いです。
 私、「対局する言葉」でも言いましたけど、将棋だけの世界に入ってると、そこは狂気の世界なんですよ。だからフィッシャーみたいな考え方になるのも、自然な気がしますけどね。特に一つのことに打ち込んでいる人ほど……。

―狂気の世界なら、そこに閉じこもっていたら危ないですね。
 いや、閉じこもったら、出口はない。狂気の世界には、入り口はあっても出口はないんですよ。

―羽生さんはそこまでは行ってない。
 私は残念ながら、そこまで行く勇気もないです。でも狂気を原動力にする人もいるんですよね。フィッシャーもたぶん、そういう人だと思うんですけど。

―フィッシャーはそうでしょうね。しかし将棋界で、そこまで入りこんだ人はいないでしょう。
 いませんね。昔もいません。

―しかし将棋にも怖いところがある。
 ありますよ。人生が千年あっても続けられるというような感じですから。

―羽生さんがそう感じるのは、周りを見てですか。それとも自分の経験からですか。
 自分でやってて、考えてて……。例えば1年なり2年なり、ずーっと毎日にようにやってたら、だんだん頭がおかしくなるのがわかりますよ。

―それがわかるから、手前で止めてるわけですね。
 入り口は見えるけど、一応、入らんとこうと思って(笑)。

(羽生さん、七冠直後のご発言)