山本氏が「血へどを吐く」と話す心はこうだ。ヒーローズのエンジニアは、パソコンに向かってコードを打ち込んでソフトを開発するだけではなく、CPU(中央演算処理装置)やメモリーなどのハード要件といったAIの実利用に必要な知識を、社内外のライバルとぶつけ合える環境があり、いわば「殴り合いながら」、そして「手を取り合いながら」開発を進められる。

 ここで得た知識は、将棋AIの開発以外でも活用ができる。ヒーローズは、竹中工務店やバンダイナムコエンターテインメントなどと資本業務提携している。竹中とは構造設計支援AIの開発、バンダイナムコとは新たなエンタメの創出を目指す。

 創業者の2人、林CEOと高橋知裕最高執行責任者(COO)はNEC内定者だった早稲田大学時代からの旧知の仲だ。「自分がやりたいことを突き通したい」という高橋氏は、NECの入社面接で「10年後には辞めます」と話すほど胆力がある熱血漢だ。

 高橋氏が林氏に独立を誘われた当時、ちょうど米アップルがiPhoneを発表し、スマートフォン(スマホ)が普及の兆しを見せ始めた頃だった。「スマホで世界が変わる。これまでとは景色が違う」(林氏)。2人でNECを飛び出して09年に起業した。

 「AI市場の成長率以上の企業成長率を維持する」。林氏の目標は高い。国内のAI市場は20年度には約1兆円、30年度には約2兆円に膨らむと予測するリポートもある。将棋AI開発で培った実戦力を今後のビジネスで生かしたい考えだ。(矢野摂士)